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魔法の紅茶専門店  作者: ミイ
72/139

072.見つけた


「それはーーーーー。」


アンは精霊達から聞いたその虫の正体について、そしてノワールの状態についてどう説明すべきか言い淀んだ。



「アン、そのまま伝えるべきだよ。」

テディはポンっとアンの肩に手を置いた。


ノワールの顔は顔面蒼白になっていく。もしかしたら、何か今よりも悪い状態になって絵を描くことも出来なくなるのではないかと。


「ノワール。大丈夫よ。()()()だから、落ち着いて聞いてね。」

アンはゆっくりと話し始めた。


「脚が枝のように硬くなってしまっていた事と、変色や痛み等の症状は別の原因みたいなの。前者がその蟲のような...魔物のせいで間違い無いそうよ。


おそらく膝の裏側に瘡蓋(かさぶた)のようなものができていたでしょう?それが、この魔物の(さなぎ)だったようなの。そして、孵化した後に体内...つまり右脚部分の水分と魔力を吸収しながら生きていたらしいわ。


これは宿主の生命の危機に瀕した時にしか寄生した体内から出てこないらしくて。問答無用で手荒な対処になってしまった事は謝りたいって。」


ノワールには思い当たる節が幾つもあった。先々週から少し膝の裏にチクチクと痛みを伴う瘡蓋があった事。表面的に瘡蓋は無くなったと思ったら膝の裏から腫れるようになり、喉の渇きが酷くなった事。そして...脚が枯れ枝のようになってしまった。


寄生されていたと知ると、酷く気持ちが悪かったが自分以外の家族に寄生されなくて良かったと思えた。


ただ、思い返せば確かに変色や痛みはもっと前からあったものだった。


アンはノワールの顔色を見ながらも、次の症状についても精霊達の見解を述べる。



「もう一つの方の症状なんだけど...。良くも悪くも、その()()()()()()で命を取り留めていた可能性が高いらしいの。」


アンのその言葉に、落ち着いて話を聞いていた三兄弟は息を呑んだ。普段はよく喋るノエルすら、何も言う事ができないようだった。


「なんだよ、兄ちゃんが... 命を取り留めていたってどういうことだよ...」


「その症状は、おそらく壊疽(えそ)というものらしいわ。私はお医者様ではないから、ノワールが何故そうなってしまったのか原因は分からないけれど...血行障害や神経障害とかで皮膚や筋肉などの組織が壊死する寸前になっているそうよ。黒や黄色に変色しているところもあるから、間違い無いだろうって。これ以上悪化すれば、死に至る可能性が高いらしいわ...。


でも、それが右脚以外の部位や臓器などに及ばずに済んでいたのが、さっきの魔物がいたおかげなの。...皮肉だけど。」


ノワールは、口を手で抑えてカタカタと全身に震えを感じた。今日2度目の死を前にした恐怖だ。


既に魔物は取り除かれている。もう今の医学レベルで自分が助かる術はないという事だと分かった。


ノエルとノラは、その言葉を拒否するように、嫌だというように首を横に振った。ノラは耐えきれずにノワールの首に抱きついた。


「ここからが本題よ。さっきも言った通り、大丈夫よ。助かる方法はあるから、どうか落ち着いて聞いて。」


アンはノワールの目を見て言話を続ける。


「ノワール、必ず助けるから。どうか約束を守って欲しいの。毎日私が渡した薬を飲み続けてくれて、そして私達の事は他言しないで欲しいの。」


アンは悲しげな顔でノワールにお願いする。


そして、ノワールが頷くよりも先に、ノエルとノラが何度も頷いた。ボロボロと大粒の涙を流して懇願する。


見かねたテディがノエルの肩をそっと抱きしめる。


「...ここからの事は、ノワールと2人きりで伝えるわ。」


アンがそう言うと、テディは咽び泣くノエルとノラを連れて外に出てくれた。


ノワールは扉が閉まると漸く口を開いた。


「...僕は、助けて頂くにもすぐにお金を払うこともできません。命を繋げたとして、絵を描いたお金をそのままお渡ししても足りないでしょう。ましてや家族の食べるご飯が無くなってしまうならば、僕は...僕は、助からなくてもいいんです。」


ノワールの目からは絶え間なく涙が頬を撫で流れ落ちた。それでも、何か覚悟を決めたように笑顔でアンに想いを伝えた。


これには、アンもつられてポロポロと涙を流してしまった。


きっと家族が本当になによりも大切なのだろうと、その覚悟と美しい心に涙せずにはいられなかった。


アンは自分の顔を両手で覆うと、肩を震わせて涙した。


「どうか泣かないでください。病に負けるのは仕方がないことです。いずれ誰しも朽ちるのです。...僕はそれがほんの少し普通よりも早いってだけです。既にあなたにこうして出会えた事が幸運でした。」


今度は逆にノワールがアンの背中を摩って、落ち着かせるようにトントンと背中を軽く叩いた。


「〜〜〜っ!違うの!私は必ずあなたを助けるわ!だから諦める必要なんて微塵もないの。


この涙は...分からないけれど...あなたの心がなんて美しいんだろうと思って、それ程に家族を想う涙が...!」


アンは顔を両手で覆い涙しながらも、言葉に詰まった。ノワールの内面の美しさが、これほどまでにも感情を揺さぶる。



「とにかく、全部大丈夫だから!」


アンはその先の言葉を繋げようとした時だった。




その時、この場にいないはずの声が聞こえた。



「...見つけた。」

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