071.蟲
すみません、ちょっと気持ち悪いかもしれません(;´∀`)!
ブウの独り言に少しアンは驚いた。
たしかにブウは他の2匹と違って、お姉さん気質な部分も感じられた。だが、今まで幼い話し方で話す事が多く、こんなふうに感傷的に声を発したのは初めて聞いたのだ。
「...美味しいです......。すごく、美味しい...です...!!!」
声の方に目をやると、ノワールが必死にモグモグとパンを食べていた。ミルクティーは初めて飲むと言われたので、アンは遠慮せずに飲むように促した。子ども達がおかわりできるよう、最初から多めに持ってきてある。
「それで...紅茶を飲みながらでも、さっきの出来事について謝らせてほしいの。」
アンは眉をハの字に下げ、心から申し訳なさそうにノワールに向き合った。
弟も妹もモグモグと美味しそうに3つ目のパンに手をつけ始めているのだから、ノワールはアンが悪いなんて事は無いだろうと当たりをつける。
「教えていただけますか?僕は目の前で見た事もない獣に吼えられたところで意識をなくしてしまいました...。」
アンはテディに目配せすると、テディが白いタヌキ...のような猫のような?生き物を抱えて見せた。
「この子は、私の紅茶専門店の看板猫です。」
ぶにゃん...。とすまなそうに猫は鳴いてテディの手の中で尻尾をパタリと振った。
「そして...先ほどの白虎で、風の上位精霊です。」
白タヌキはピャッとテディの手から降りると、ノワールの右脚に擦り寄った。
ノワールは何が何だか分からず、身体を擦り付けてくる白タヌキを見ながらアンに意識をなくした後の事を教えてもらった。
ーーーーーノワールが意識を手放した後。
最も大きな咆哮の後、白虎は意識を失ったノワールの腹部にその前足の重さをかけはじめた。ググッと前足が腹部を圧迫し、ミシリと背中、そして床が音を立てる。
意識を失いながらもその重さに耐えきれずにノワールは口を大きく開けて呻く。
助けたいのに膝が震え動けないテディも、せめて子ども達が近付かないように必死に抱き止めるアンも恐怖はあれど、その光景から目を離しはしなかった。...離せなかった。
そして、白虎が前足をそっとノワールのぐったりとした身体から降ろし、横向きになるよう鼻で転がした。白虎はそのままジッとノワールの様子を見ているようだった。
テディは震えを誤魔化すように自身の足に拳を力の限り叩きつけ、ようやくノワールを救出しようと歩き出した。白虎は吼えることも睨みつけることもなく、テディの行手を阻まぬように一歩後ろに下がった。
テディは虎から決して目を離さずに、震える手でノワールの肩に触れ、無事か確認しようとした。
その時、ノワールが軽くケホッと咽せ込んだ。テディは生きている事に安堵するも、その後は何かが全身を蝕んでいるかのように苦しみだした。
ゲボッゴホッという音と共に何度も血を吐き、最後には気味が悪い程に鮮やかなピンク色の蟲のようなものを吐き出した。それは、見落としそうな程にとても小さく、何十本もの長い脚が特徴的だった。
小さな身体にも関わらず、ギチギチギチと嫌な音で威嚇し、逃げようと窓の光の方へ向かう。だが、咄嗟にテディがハンカチで包み逃げられないようにした。
「はじめて見た〜」
「脚たくさん〜」
「アン、白タヌキが駆除してくれたって〜」
「白タヌちゃん...?」
アンが怯えた目で部屋の中を見渡す。白虎の後ろのあたりにも白タヌキがいないか確認するが、やはりいない。
「まさか...本当に...!?」
「ぶにゃん。」
巨大な白虎は一瞬にしてシュルッと風が吹くと同時にいつものわがままボディの白タヌキに戻った。
アンの方へトテトテと駆け寄ってきて、抱えてもらっているノエルを頭でどかすと、膝の上にちゃっかりと座る。アンが呆気にとられていると、テディも同じ顔をしていた。危うくテディはハンカチに包んだものを離しそうになった。
それから気を取り直すと、ノワールが起きるまで皆でベッドに運び顔を拭き目が覚めるのを待ったのだった。
「ーーーーーと、言うのが私達が見た範囲のことなの。」
アンは説明を終えると、ノワールの足下から戻ってきた白タヌキを抱えて膝の上に乗せた。アンの細腕で持ち上げるにはなかなかズシッと重い。
「それで、その蟲のようなものはいったい...?」
ノワールが気味悪そうに、テディのハンカチの中でカサカサと動くものに目をやった。
「それはーーーーー。」
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