007.美味しいクッキー
「よし...。」
気合でなんとかするわ!とアンは再び勢いよく紅茶に手をかざし、魔法を唱えた。
「じゃあ、いっくよ〜」
「僕らのための、美味しいお菓子」
「幸せのお菓子をくださいな〜」
精霊達が歌いながらアンの魔力と紅茶を混ぜて魔法を付与しはじめた。
ワサァッワサァッと紅茶が混ざり始める。アンは必死に魔力が抜かれることに抵抗をする。
(蛇口蛇口...お風呂の栓の方がいい??ええぃ、いいや、ひとまず蛇口蛇口蛇口〜!!)
アンの頭は邪念だらけで、魔力操作どころではなかった。それでも、本人にとっては嬉しい誤算があった。
「アン〜もういいよ〜」
「おしま〜い」
「できたできた〜」
精霊達はあっけなく終わりを告げる。
これには祖母もアンも驚き、聞き返す。
「「え、おわり??」」
「そうだよ〜」
「おわり〜」
「早くお菓子〜」
もはやお菓子欲しさに精霊達がゴネはじめた。
「それじゃあ、アンの魔法付与が完了しているのか、私が飲んでみようかね。」
そう言って祖母は魔法付与をした紅茶の瓶を持って、紅茶をいれに行った。
「うん、おばあちゃんお願い。」
アンはドキドキしながら、祖母が紅茶をいれに行くのを見守る。すると、精霊達がアンに思わぬことを伝えてきた。
「アン〜ごめん〜」
「アンは蛇口のイメージもいらないの〜」
「止める必要なかったの〜」
精霊達は謝っている割には嬉しそうだ。
「アンの魔力ね〜」
「底が見えなかった〜」
「1日1回どころじゃない〜」
「え、どういうこと?」
と、アンはキョトンとする。祖母が言うにははじめは1日1回できれば凄いとのことだったはずだ。
と、祖母が戻ってきた。
「どれ、飲んでみるよ。」
...................ゴクン。
バタン!!!!
((バタン??))
アンと祖母はその音の正体を見ようとドアの方を向いた。
「....................................ハァッハァッハァッハァッ........こんっにちハァッ.......ハァッハァッ...。なんか今日の移動販売は急いで...........ここに................来なきゃいけ.....ない気がして.......30分前から走ってきたんです......ゼハァーーーッ。」
お菓子屋さんの移動販売の若い男の販売員が、飲んだとほぼ同時に現れた。あまりの剣幕にアンも祖母もドン引きである。
「あ、あぁ...ゆっくり休んで行っておくれ。それと...」
注文しようと祖母は精霊達のつむじ風の方をチラと見た。
「クッキー!」
「美味しいクッキーが籠に入ってる〜」
「チョコレートの〜」
祖母の妙な間に販売員が首を傾げた。
「...チョコレートのクッキーだね。それを5袋もらうよ。」
「はーい、1、2、3...5袋ね。1,000コロンです。しっかし、なんで慌てて出てきたんだったかなあ...。」
コロンとはこの国の通貨である。
「わざわざ急いで来て頂いてすみません...」
アンが申し訳なさそうに謝った。
「ふぅ〜っ...。アンちゃん、明日で18の旅立ちだろ?それで急いで来たのかな?ハハハ、俺が勝手に気が急いじまったんだ、アンちゃんは悪くないんだから謝らなくていいんだよ。あ、ばあちゃん、紅茶までありがとうございます。ここの紅茶をいただけるなんてラッキーだな俺は!!」
販売員は豪快に笑い、紅茶を飲み息が落ち着いたら帰っていった。
...
「で、どういうことなの?おばあちゃん。30分前からあの人は走ってきてたって。」
「う〜ん?即効性にしてもおかしいね〜。私も飲んで1時間後くらいに来るかと思ってたんだよ。」
アンと祖母が首を傾げていると、精霊達がよくぞ聞いたというように、仁王立ちポーズで3匹並んで目の前に立った。(祖母にはつむじ風にしか見えていないが。)
「僕たちがね〜」
「魔法使うから早めに準備しておくようにね〜」
「風の下位精霊にコッソリお願いしてた〜」
「「「30分ジャスト!仕事の先読み天才〜?」」」
精霊達がまたもやキャッキャとハイタッチなんてしている。
「おばあちゃん...魔法って精霊様達の気分に大きく左右される...??というか今の場合、紅茶必要なかったよね...??」
「そのようだね...こんな極端に上方に効果がブレたことなんてないから、私も初めて知ったよ...先読みが素晴らしすぎるにも程があるよ。」
ハハハ...と力なく口の端が引き攣りながら、2人は笑った。
「「「で、食べていい??(じゅるり)」」」
「うん、でも今どうせならチョコレートクッキーにあう紅茶をいれてきてあげるから、少し待ってて!」
アンは急いで普通の紅茶をいれに行った。
こんにちは、はじめて小説を書いています。
レビューやブックマークをしていただけると
励みになります⭐︎よろしくお願いします!!