062.真相
アンが呆然としていたところ、マークが駆け寄ってきた。
「団長!いやはやすごい音がしたもんだから、これは同時ノックダウンかと思いましたぞ!何故避けなかったんです!?」
セトはマークに向かってすみませんと笑って答えた。
「マーク副団長、すみません。これには理由がありまして...。」
マークに詰め寄られ、セトはグレイソンにも説明を求めるように視線を送る。
「マーク、君のところの団長を殴ってすまない。ああでもしなければアンの作ってくれたものの防御力向上の効果を測れなくてだな...。」
マークは昨日のゲイルラビットとメタルタートルを思い出し、理解した。だが、そこまで強い魔法付与とは...と、考えが深まりそうなところでセトの怒鳴り声にハッとした。
「ってかグレイソン団長!!最初からわかってたんすね!俺らのレベルでも傷一つ付かない可能性!!!そりゃ、並の騎士同士で勝負させても測れないでしょうけど!」
全く人が悪い、と言うようにセトは腕を組んでグレイソンを軽く睨んだ。
「ほーう!並の騎士、か!言うようになったなあ〜セト!私は嬉しいぞ!」
グレイソンはセトの頭をワシワシと撫でる。
「〜〜〜ちがっ!やめて下さいよ!俺だってもう第二騎士団の団長なんすから!!!」
セトの親戚のおじさんをいさめるような言いっぷりにマークは苦笑いする。
アンはこの2人って仲が良いんだなぁ、マークさんも副団長だったんだなぁ、とボンヤリ考えていた。
が、すぐにハッとすると、2人の腕をグイッと引っ張って顔を近付けた。
「怪我...!!お二人とも大丈夫なんですか!?」
2人は突然アンに引かれ、全く身構えていなかったために横によろけた。
グレイソンこそ一歩で踏みとどまったものの、セトは勢いが止まらず、セトの肩とアンの額がドンッとぶつかってしまった。
「〜〜〜っわ!わりっ!...違っ!申し訳ありません!!!」
セトは慌ててアンに謝った。
「わ、私こそ急に引っ張ったりしてごめんなさい!!!あ、あの...大丈夫ですか?」
アンは恥ずかしそうにセトの顔を覗き込む。
「あ、や、肩に軽く触れたくらいです!問題ありません!俺なんかよりアンさんこそ、大丈夫っすか!?」
セトはブンブンと肩を回して問題ないことをアピールする。
「あ、いえ、私はいいんです!そうではなくてお二人のお顔の方...!!」
アンは言った直後に、ハッと否定しなければ良かったと思った。
「!!!
...まっ........また俺、勘違いを...!!!」
セトはまたもアンの言葉の意味を捉え間違った事を恥じた。腕で顔を覆うも、見えている部分はほのかに赤い。
この光景に、グレイソンは既視感を覚えた。セトは"また"と言ったなと。そして、真相が分かった途端、自分もこんなことで一喜一憂するような人間なのかとげんなりしてしゃがみ込んだ。
「あの、だ、団長さんも大丈夫です...か?」
グレイソンがアンの問いかけに「大丈夫だ」と短く答えようとした瞬間。
グレイソンの髪に細い指が優しく触れた。
思わずパッと顔を上げると、アンがグレイソンの頬に触れ、怪我をしていないか確認しようとしていた。
目の前に突然現れたアンの美しい顔に目を奪われ、顔にペタペタと触れるアンの華奢で少し冷えた手の感覚に、グレイソンは完全に固まる。
「はい、大丈夫そうですね。」
グレイソンの左頬を優しく包みながら、アンは天使のような笑顔で微笑んだ。
その様子に、セトも本当の意味で顔を赤くしたが、グレイソンは全く気付く余裕など無かった。
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