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魔法の紅茶専門店  作者: ミイ
61/139

061.模擬戦



グレイソンの口付けによって、アンは一瞬で顔が沸騰した。


「な、なななななななな!!??」


言葉にならず、口付けされた手を引っ込めることすら忘れ、アンは口をパクパクしている。


グレイソンは口付けをした手をそっと離すと、ニコッと悪戯っぽく笑って「行こっか」と軽く促した。その余裕な様子に、アンは顔を真っ赤にしながらぷくっと頬を膨らませた。


「ち、ちょうど周りには誰もいないから良いものの、団長さんが勘違いされちゃいますよ!?」


既にスタスタと歩き始めていたグレイソンが妖艶な笑みのまま振り返ると、金色の髪が靡きアンの心臓がドキッと音を立てたのを感じた。


「ほう...?()()()()()勘違いされてしまうのだろうか?」


「〜〜〜っ!?」


グレイソンはアンの目の前まで戻ってくると、話すには近過ぎる距離で止まった。アンが顔をあげれば、本当に目の前にグレイソンの美しすぎる顔があるのだろうと、アンは下を向いたまま黙った。微かに息遣いがわかる距離である。


(近い近い近い!!!パーソナルスペースってこの世界では無いんだっけ!?というか私みたいなのが勘違いされるかもだなんて...なんって烏滸がましいことを...!)


アンは色々と恥ずかしすぎてパニック状態になっていた。顔は赤いし、上も向けずただただ困惑するのみである。


すると、


「アン状態異常かなあ〜?」

「あの小童のせい〜?」

「ぶっ飛ばす〜?」


と、近くで遊んでいたはずの精霊達がグレイソンを敵認定しはじめ不穏な空気を醸し出していた。グレイソンはザワッと身の危険を感じて肩が上下した。


「だ、だめだめだめ!!!団長さんは悪くないから!!!」


と、アンは大声で3人を嗜めた。


「「「は〜い」」」


精霊達が素直にいうことを聞いてくれてアンはホッとした。だが、グレイソンが目を丸くしている様子を見て、しまった!と口を両手で覆った。


「...いらっしゃるのか?」

グレイソンは恐る恐る尋ねる。


「はい...。」

アンは口を覆った手を下げながら答えた。


「あ、謝ったほうがいいだろうか...。」

グレイソンは冷や汗をかきつつ様子を伺う。


「あの、謝ったら謝ったで攻撃されそうなので、気にしないでください〜!」

アンは必死に精霊達もグレイソンも宥める。


「そんなことより!演習場でセトさんが待ってますよ!」

アンはドンとグレイソンの胸を押し、腕を掴んで演習場方向に引っ張った。


「あ、あぁ、すまない...いや、でも、だがしかし...。」

グレイソンは精霊達を怒らせたのではないかと冷や汗が止まらず思考も絡まったまま演習場へと足を運んだ。



...



演習場に着くと、セトが模擬剣を2本持った状態で待機していた。

「グレイソン団長、準備はできてます!」


「分かった。アンも準備をお願いしてもいいか?」


「はい、既に小さなガラス瓶に入れてきていますので、お二人ともこちらをお飲みください。効果は感じないと思いますが、即時性です。ちなみにあと4本あります。」

アンは鞄から小さなガラス瓶を2つ取り出し、2人に手渡した。


「これが防御・回避力向上のポーション...いや、紅茶ということだな?」


「はい。あの...形の上での話になってしまいますが、なんだか模擬戦前に紅茶ではしまらないですね...。」


アンは今更ながら苦笑いをした。600人分おさめるときには、ポーションや漢方のような形を取るべきかと考える。


「ははっ。たしかにあまりにも優雅だな。周りの騎士からすると違和感しかないだろうな。」


「たしかに、これは不思議でしょう。」

セトも苦笑いをする。


「久々の騎士団の実力()()()2名による模擬戦に、乾杯でもしておくか?」

グレイソンはニヤニヤしながらセトに瓶を掲げてみせる。


「〜〜〜っ!やめて下さいよ...俺なんて先日2番手に上がったばっかですし!」

と、セトは照れながらも瓶を掲げ、マナーに則り瓶同士はぶつけずに乾杯し、飲み干した。


グレイソンも一気に飲み干しながら、

「お、ガラス瓶を掲げるだけにしたのは正解だな。ポートマン製のガラス瓶を乾杯でぶつけたら、周りにドヤされそうだ。」

と軽口を叩いた。


ゲホッとセトが思い切り咽せこんだので、アンが背中を摩る。


「団長さ...グレイソン団長!失礼ですよ!ポートマンのガラス瓶はぶつけたくらいでは傷つきません!セトさん、大丈夫ですか?」


アンの更に斜め上の発言で、エホッ!!!っとセトが余計に咽せる。

「マジっすか...これマジでポートマン製なんすか...。」

セトの手が落とさないようにと震えはじめた。


「セトさん、お気遣い頂かなくとも、祖父からタダで貰ったものですし、落としたところで割れもしないので問題ありませんよ!」


セトは、そういう問題でもないし()()ってまさか!?と目を見開いた。


グレイソンはセトの肩にポンっと手を置くと

「まぁ言いたいことは分かるが、日が暮れる前に効能の確認をやっちまおう。」

と言って演習場の中心に向かった。


セトも頷いて後に続いた。


既に騎士団のトップ2が模擬戦をやるということで、周りには大勢の騎士達が固唾を呑んで見守っていた。勉強にもなるということで、公式に見学が許されたようだ。




そしてーーーーー



「セト。始めるぞ。」

グレイソンが模擬剣を構えた。途端にとてつもない覇気と殺気が立ち込める。その空気感に耐えかねた周りの騎士達がゴクリと喉を鳴らす。


セトは深呼吸し、目の前のグレイソンに集中する。

「いつでもどうぞ。」

始まってもいないのに、ビリビリと気圧される感覚に、アンは自分の右手で左手を包みギュギュッと握りしめた。



「...アン、少し下がったほうがいい。」

ふと、知った声がして上を見上げるとマークがアンの肩を掴んで下がるように促した。


「あっ...!」

と小さく声を出し、お辞儀だけして他の騎士達と同じラインまで下がる。


その途端、ガゴッッッ!!!!!

っと凄まじい音が演習場に鳴り響いた。


2人が模擬剣を交えた音だった。

すると、はじまって間もないにも関わらず、グレイソンが一度手を挙げて、試合を止めた。


「セト。少し止めるぞ。」


「...はい。」


「これは...模擬剣でやって、効能が試せるレベルではないな。」


「そうっすね...。真剣と銃まで使用してようやく意味があるかといったところっすかね。」


グレイソンとセトはヒリヒリとした空気感を保ちつつも、確実にニヤリとしていた。アンは笑った2人を見て、嫌な予感しかしなかった。


2人は近くの騎士に命じ、騎士団の支給品の最低ランクの剣と銃を準備させた。


「!?」

アンは本物を使うなど信じられない、というように両手で口を覆い、マークの後ろに隠れた。


「アン、心配するな...。本物を使った演習など騎士団ではザラにあることよ。大丈夫、見守っててくれ。」

マークは背中にいるアンの方を向くと、苦笑いしながらスマンとだけ言って2人の方に向き直った。



「さてと...。では、セトの銃からいくか。」


「そうっすね。ンじゃ、行きます!」

セトは目にも止まらぬ速さで二発撃った。アンにもセトの射撃の腕は超一流だということは感じられた。


だが、グレイソンは撃たれた瞬間に避けるどころか、軽く剣を振っただけだった。団服の上着が少し靡いたが、それだけだった。


そして、キィンッと僅かに音がした後にグレイソンの後ろの地面に銃弾が突き刺さったように小さく土煙が2つ上がった。


「やっぱ弾丸くらいなら、弾けますか。」

セトは想定内というように、軽く頷いた。


グレイソンは「なるほど」とだけ小さく呟くと、いつの間にかセトの懐に踏み込んでいた。セトは待っていたかのように、落ち着いてウサギのように跳ねて身を翻して剣を躱す。



2人はそこから5分もの間...



剣を()()()()()()()()()



アンがハラハラとマークに隠れて見守っていると、グレイソンは突如クククッと笑いだした。それにつられるようにセトもハハッとお腹をおさえて笑い出す。周囲は意味が分からないように、どよめきが起こった。


「ククッ...セト!この方法はやめだ。これでは意味がない。互いの攻撃を簡単にかわせてしまうせいで掠りもしない。」

グレイソンは剣をおろし、音もなく鞘におさめた。


「ハハハッ...ほんとですね。こんなに貴方の攻撃も銃も軽々とかわせてしまっては、面白くて試合になどなりません...フッ...フフッ。」


「少なくとも回避力は異常なまでに跳ね上がる事は分かったな。」

グレイソンは試合後の握手を求めるように右手をセトに向かって差し出した。


そして、セトもグレイソンに対して右手を握ろうとした...




その時、




互いの拳が互いの左頬にヒットした。ガゴンッッ...!!!と確実に意識を失うか顎の骨が砕けたであろう音がした。


2人は後ろにフラッと後ろに仰け反り、そのままバタッと地面に仰向けに倒れた。




「痛っ...!?」

それを見たアンは殴られたわけではないが、自分の両方のほっぺを押さえた。


あまりの痛そうな音に見ている騎士何人かも頬をさすってしまっている。演習場が途端にザワザワとしはじめた。


「いやぁ...あれは双方ノックダウンの可能性、あるぞ...。」

さすがのマークも顔が引き攣っている。



地面に倒れ、まだ動かない2人に周りが治癒班を!と叫ぶ声も聞こえてきた。


アンは心配のあまり、鞄を置いたままマークの後ろから飛び出した。何かあれば直接治癒魔法をかけてしまおうと精霊達に目配せして2人の下へ走る。


そして、2人に向かって大丈夫かと声をあげようとしたその時。


「...フフッ......ハハハハハッ!!


 ...あー、空が見える。

 笑えるなあ。」


地面に転がっているセトが笑い出した。


「ぃ、よっと!いやー、それにしても見事なものだな!」


グレイソンが軽く上体だけで跳ね起きると、セトを立ち上がらせるために右手を差し出した。セトは今度こそグレイソンの右手を取ると、勢いよく立ち上がった。


「これは他国が慄くどころか、戦争をしかけてくるバカはいなくなるだろう。」

グレイソンは悪い顔でニヤリとアンの方を見る。


「そうっすね。少なくとも最前線の騎士で死者が出る事はなくなるでしょう。」


「まぁ痛みが無いわけではないから、Aランク以上の魔物となると、実力が伴わなければさすがに無理だろうなぁ。」


「フフッ...!それにしても、グレイソン団長、なんすかさっきのヘナチョコパンチは!そんなんで団長名乗っていいんすか?」


セトはニヤニヤとグレイソンに悪態をつく。礼儀正しいセトが珍しくヤンチャな雰囲気を醸し出したことに、まわりは物珍しそうにしていた。


治癒班といっしょに王宮の侍女達もやってきたが、そんなセトを見て小さく黄色い悲鳴をあげつつ顔を赤くしていた。


「フハハッ!セト、お前のだって新兵の時の方がマシだったぞ!」

グレイソンはセトの背中をバシンッと叩く。





アンは意味が分からないというように、2人のそばでただ佇んでいた。

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