006.魔法の使い方
祖母は想定外なことが続き、もはやどこまで説明をしただろうかと考えていた。明日はいよいよアンが王都に旅立つ日である。あまり時間はない。
「おばあちゃん、今更の確認だけど、私も魔法使いになれるということなのかしら?」
「そ…」
祖母が言う前に精霊達が口を挟む。
「そりゃそうだよ〜!」
「僕らがついているんだもの〜」
「私たちが認めているんだもの〜」
「精霊様達、ありがとう。」
アンは口を挟む精霊を見てフフッと笑った。
「でもおばあちゃん、魔法はどうやって使えば良いの?教わったことないよね?」
「今から教えるわ。やることは簡単なの。でも普通は精霊様との意思疎通ができるように自分自身にあった手段を見つけ出すの。そして、話を聞いてもらえるようになるよう、自分自身に興味を持って頂けるように心身を磨いていくわ。...まあアンの場合ここまではできてしまっているのだけどね。普通はここまでが最も長いプロセスだよ。
だから、アンの場合は、魔法を使いたい対象物に魔力を流して今から教える魔法を唱えることができればおしまい。
とはいえ、魔力操作はコツがいるわ。簡単な魔法でも結構魔力を使うの。少な過ぎれば効果は出ないけれど、多すぎるとその日はそれ以上の魔法が使えない、なんてことはザラにあるわ。」
「料理と同じで無駄なく材料を使えば、別な料理も食べれるってことね!朝ごはんに卵焼きと目玉焼きが食べられるわ!」
アンは得意顔で鼻息荒く言い放った。
「アンって昔から例えが不思議だよね〜」
「料理だと食感違うけど、栄養価変わらないからオススメしないよね〜」
「あはは、手間が増えてる感じ〜アンって面白〜い」
祖母は最早アンのこういったぼんやりな部分にはお構いなしなので、精霊達がツッコミを入れる。
「まあ、何はともあれやってごらん。ここに数種類の紅茶がある。魔力を流しながら、精霊様にお願いして付与したい効果を付けてもらうんだ。はじめは1日1個できたら凄いもんさ。それも思う通りの効果にはならないだろうから、まずは1年自分で精霊様達と会話をしながら修行ってところさね。」
祖母はヒッヒッヒと笑う。おばあちゃん、それこそ魔女っぽい!とアンは肩を上下させて思った。
「ふぅ、やっぱり道のりは遠いかあ〜。」
アンは苦笑いしながら、前世での急がば回れということわざを思い出していた。
「まあ、明日から王都に向かうのにも時間はあるし、それからの予定も未定だし、たくさん試してみる。おばあちゃん、ありがとう。」
アンはそう言うと、数種類の紅茶と向き合った。
「物は試し...まずはどんな効果のものから作ったらいいかしら?」
「まずは欲張らずに一個の効果に絞ること。それから、簡単にイメージができるものがいいね。例えば、短いメッセージを届ける魔法なんてどうだろう。風魔法と相性がいいはずさ。」
祖母は提案した。
アンは科学の発達した前世の記憶から音は空気の振動であるから、たしかに相性はいいだろうなと思った。
だか、精霊達は、
「えー、そんなの僕が伝言しちゃえば終わっちゃうからつまんなーい。天気でも変えてやろうよ〜」
「天気変えられる子は300年前に1人しか会えなかったね〜」
「あの魔法が1番スカッとして好きなのに〜」
なんだか恐ろしいことを言っている精霊達を横目に、アンは窓を確認した。
晴天。
(これ、精霊様達は派手に天気変えたいって感じだけど、雷雨とか雪にでもしたら村中大騒ぎよ...。無視しよう。)
「街一番のお菓子屋さんの移動販売がうちの前を通る、なんてどうかしら?風魔法のイメージとは関係なさすぎるかしら?...でももしできたら、精霊様達も紅茶と一緒にいかが?」
「「「そいつはいいや〜!アン天才〜!」」」
と精霊達がピョンピョンと飛び跳ねる。すると、小さなつむじ風が起き、窓から飛び出して行った。
「役に立つというより、精霊様へのお礼の魔法ってところね。アンらしいよ。精霊様達も喜んで、皆イメージしやすいから、王都に着くまでには完成するかもしれないね。」
アンは今からせっかくならばと精霊達とお茶会をするつもりだったようだ。とはいえ、祖母はそこまで魔力操作が甘くはないということを身をもって実感していた。
「決まりね!」
アンはワクワクが止まらないといった顔で紅茶に向き合った。
「せっかくだから、おばあちゃんの紅茶の中でも1番好きなこの紅茶にするわ。」
アンは紫色の葉と黄色の花が混ざった紅茶が入った瓶を手に取った。
「アン、今予定してる魔法なら、どんな紅茶を選んでも失敗することは少ないはずさ。ただ、他の魔法を使うときには紅茶ではなく、いろんな媒介が考え得る。その魔法に適したものを選ばないと効果が薄くなるし、効果を打ち消しあってしまうこともあるから気をつけるんだよ。
そして、唱える言葉は、『風の精霊よ、多くを望まぬ我が魔力を糧に』だ。その後に具体的な魔法効果を。」
祖母が言い終わると、アンは頷いた。そして、紅茶に魔力を祖母の見よう見真似でやってみる。
「風の精霊よ、多くを望まぬ我が魔力を糧に。
...街1番のお菓子屋さん、この精霊様達のために移動販売にお越し下さい...」
紅茶の入った瓶に向けて、アンは両手を向けて魔力的な何かが出るイメージをする。むむむっと身体に力を入れるが、特に変わった気はしない。
「アン、アンってば。」
「何してるの〜?」
「アンは手を出せばいいよ〜?」
精霊達はアンの頭の上でポンポンと飛び跳ねている。
「えっ...?どういうこと???」
「魔力はね〜僕たちが引き出して、効果を付与しながら媒介と混ぜるの〜。」
「アンは、蛇口をひねるイメージなの〜。」
「魔力が持っていかれすぎないようにおさえるだけ〜。」
祖母は苦笑いしながら聞いていた。
「だけって言いますが、精霊様...精霊様が持っていく魔力を押さえ込むのは人間にとっては至難の技です。私でも血を抜かれるのを無理やりおさえるような、無茶なことですからね...。」
アンは、血を抜かれるのを気合で止めるのは無理だな〜と献血のことを思い出しつつ、遠い目をしていた。