057.白タヌキは不機嫌
翌日。
「白タヌちゃーん!オヤツよ!ね?これ大好きでしょ?おかわりもあるの!ね?ね?」
アンは白タヌキのご機嫌取りに必死になっていた。白タヌキの好物をテーブルに並べ、近寄ってきてくれるのを待っていた。
アンが東の森に素材収集に行っていた日。ベランダの白タヌキの特等席に、ゲイルラビットが降ってきたのだ。
白タヌキ用にアンが用意していたクッションは血塗れ。昨日は1日、白タヌキはアンと目も合わせてくれなかった。
朝になって少しは機嫌をなおしてくれたが、まだ抱っこはさせてくれない。
「はぁ...。分かった。好きなクッション取っていいから。」
アンはとうとう最終手段にうつった。
すると、白タヌキは目を輝かせ、アンのベッドの上から枕を咥えて持って行った。
「それ、お気に入りだったんだけど...!せめてクッション...。」
アンの消え入りそうな声を白タヌキは無視して、水魔法と風魔法で掃除済みのベランダに向かった。
アンは気を取り直して、キッチンに向かった。今日は一日休みのため、昨日収集した素材の貯蔵と、防御力・回避力向上の紅茶を作りきらなければならない。
他にも、ジャスパーの印刷技術が出来た事でやりたいことも増えた。時間は全然足りないのだ。
「まずは、昨日のうちに処理したゲイルラビットとメタルタートルの肝をすり潰すところからね。」
アンは腕まくりをすると、作業を開始した。素材を切り分け、精霊達に風魔法で乾かしてもらう。これだけでも大幅な時短である。
そして乾燥させた素材をすり潰し、それぞれクセのある味が残らないように処理をして上手く紅茶に組み込んでいく。この辺りは祖母から引き継いだ技術で難なくできた。
ただ、アンの細い腕ですり潰す作業を1時間も行なっていたため、腕が既に悲鳴をあげていた。
その腕で白タヌキを抱き抱えると、最後に白タヌキにフゥッと魔力を注いでもらえば完成だ。数時間かかったが、味わいには問題がなかった。
「残る問題は、自分では防御力も回避力も上がったかの確認ができないということね...。」
ゼロにかけ算してもゼロだ。まともに防御も回避もした事のない自分では実験にならない。
どうしたものかと考えながら、残りの素材をしっかりと密閉保管して、風魔法でプウに中の空気を抜いてもらう。
「やっぱり騎士団の方々にお願いするしかないわよね...。」
既に夕方に差し掛かった時間だったが、アンは王宮内の騎士団演習場に向かうべく外出着に着替えた。
そこで、ブウがアンに声をかけた。
「アン〜どこかお出かけするの〜?」
「うん、王宮の騎士団演習場に行こうと思うの。紅茶の効能を試したくて。」
「ふう〜ん。なら、私達も着いてく〜!」
「うん、心強いわ。ありがとう。」
アンは手のひらにブウを乗せ、微笑んだ。