056.メタルタートル
...
「そろそろメタルタートルの生息地だ。やつらは手を出さなければ襲ってくることはないが、舐めてかかって下敷きにされれば死を覚悟する事になる。気は抜かないように。」
マークは全員に注意事項を共有してくれた。
「ケントの剣でも折れる硬度だからな...。ハンマーは装備してきたが、長期戦になると思ってくれ。せいぜい1m大のメタルタートルを一刻で1匹といったところだ。」
マークはうんざりとした声で予想する。
その時、ジャスパーが前に出た。
「それならば私がやろう。1匹でいいのですね?」
ジャスパーはアンに確認をした。
アンはキョトンとしつつも、コクンと頷いた。
すると、ジャスパーはガサゴソとリュックから5cm程の魚型の魔道具を数個取り出した。そして魔道回路に少しの魔力を込めると、目の前の沼地に軽く放り投げた。魚型の魔道具が泳いでいくのが見えた。
「沼地の反対側が群生地だろう?何か仕掛けるには、まだ数百メートル距離があるだろうに。」
マークは顎の髭を触りながら首を傾げた。
「まぁ...今日のジャスパー殿の行動からして意味のない事などない、か。それが捕獲までの最短ルートという事でしょうな。」
腕を組み、マークはガッハッハッと笑った。
ジャスパーは否定も肯定もせずにいた。
その途端。マークの後方、沼地の真ん中から
ボフッ!!....ゴポゴポゴポッ...
と音がしたためマークはビクッと肩を震わせ目を丸くした。
ケントがサッと携帯型双眼鏡を沼地の方角に向ける。
彼は
「あぁ...なるほど...」
とだけ言うと双眼鏡を胸ポケットにしまい、苦笑いした。
「一応聞きますが...何が見えたんです?」
アンは大方予想はついていたが、念のため尋ねてみた。
「...浮かんだメタルタートルだ。」
ケントは予想通りの言葉を発した。
それから15分ほどかけてメタルタートルが小型の魚達に引っ張られ、沼地の端までやってくるのを紅茶を飲みながら待った。
...
4人は沼地から陸に上がってきた魔物を回収した。
「やはりメタルタートルですね...。外傷はありませんが、どうやったのですか?」
ケントは興味津々である。
「小型爆弾を食わせた。」
ジャスパーは表情を変える事もなく答えた。質問に対して一言ずつしか返してくれないが、要するにこういうことらしい。
先ほど見つけた雷の魔石は、思った以上に強力で、落雷レベルの力がある事が分かった。それを元々持ってきていた魚型の沼地探索用の魔道具にセットした。
魚型の魔道具は探索機能しか付与していなかった上に、硬質な素材への魔導回路の書き込みは特殊なインクでしかできなかった。
だが、複写について検討する過程でこの雷の魔石であれば魔導回路を直接焼き付けられる事が分かった。
そこで即席で魚型の探索機能付き小型爆弾を作った。メタルタートルの口の中に入ってしまえば、やはり内臓には防御力など無かったようだ。そのまま胃の中で爆発して、メタルタートルが浮かんできたこということだった。
この日、ジャスパーと騎士団の活躍により想定よりも2時間ほど早く全ての素材収集が完了した。
アンは少しでもお礼にと、治癒魔法付きの紅茶を3人へ手渡した。半ば強引に押しつけてしまったからか、ケントとマークは冷や汗をかいていたような気がしたが、お礼無しともいかないので受け取ってもらった。ジャスパーはある意味私の作品もポートマン製品という事で、深々と頭を下げられた。ひとまず喜んでくれたようで何よりだった。
アンはこの時まだ、ベランダの白タヌキの昼寝スペースがゲイルラビットにより血塗れになっている事は知らない。白タヌキはその日1日機嫌を直してくれなかった。