005.守護精霊
「おばあちゃん...私、話が進みすぎて混乱してきた...!そもそもおばあちゃんがこの国に10数人しかいない魔法使いっていうところから、凄すぎて意味がわからないもの!」
アンは頭を抱えてテーブルに突っ伏した。
「アン、まあ落ち着いて。私も精霊様達のアンへのご執心に関しては正直予想外でね…。」
祖母は苦笑いしながら、テーブルの上でクルクルと機嫌よく回るつむじ風を眺めている。
「まあ、説明しようかね。」
アンはスカートの膝のところをシワになるくらい握り締め、頷いた。
「この王国では魔法が存在するが、だからといって一般的なものには程遠い。何百年か前までは何万人もいたらしいけれど、戦争に精霊様の力を利用しはじめた愚か者たちが出た。それから精霊様達は私たち人間に精霊の力を貸すことをやめたのさ。
だが、全員が魔法を使えなくなり、精霊の力を忘れ去ると、それはそれで精霊様達のことを蔑ろにするだろう?」
祖母の説明の間、精霊達は劇風に戦争の様子や、精霊の怒りを演じてアンに披露していた。アンはそのかわいさに時折音を立てずに笑顔で拍手を送っている。
「だから、精霊様達の認める正しい使い方だけを愚直にできる、多くを望まないような人間にだけ魔法が使えることとなった。だが...多くを望まない人間なんてそういるもんじゃない。自分で言うのもなんだけどね。
それに、これはお前も知っているだろうが、魔法が使えるようになるのは18歳の誕生日前日からになったんだよ。魔法の使える子どもが戦争に駆り出されるのを見て、精霊様達の逆鱗に触れたんだ。当たり前さね。」
ここまで祖母の話を聞くと、今日がアンにとって18歳の誕生日の前日であり、これまで見極められていたのだろうと気付くこととなる。
(さっき魔法を見た瞬間に、もしもお金になるとか権力が手に入るとか少しでも考えていたらどうなっていたのかしら…そもそも私は魔法が使えるのかしら…)
そんな考えが頭をよぎる。
祖母は話を続けた。
「そんなこんなで、18歳以下は魔法が使えなくなり、戦争で魔法使いは激減し、厳しい条件の中何百年も魔法使いを途絶えさせなかった家系はほとんど残らなかったんだ。」
「うん、過去の経緯についてはわかったわ。それで…私にはこの精霊様達が見えるのだけれど、魔法使いなら誰でも見えるんじゃないの?」
祖母は首と片手を同時にブンブンと横にふった。
「そんなわけがあるかい!聞いたことがあるかい?精霊様の姿なんて。私はこの国の魔法使いの中でも魔力が強い方だ。それでも、精霊様自体は見たことなんてないんだよ。精霊様達の起こしている風や水なんかは、なんとなく分かるくらいのもんさ。」
「うーん、思ったより魔法使いって万能とは遠そうな存在なんだね…」
「そうさ、精霊様達のお力を借りて、自分の魔力と混ぜて魔法を使うんだよ。万能なんてあり得ない。」
祖母が確信めいていう。
だが、
「えー、でも僕らが気に入った子にはたくさん力を貸しちゃうからある意味万能〜」
「魔法使い人気投票みたいなもの〜」
「でも本人の魔力量は絶対的な基準になるから、限界はあるね〜」
「「「あ、じゃあやっぱり万能説は否定の方向で〜」」」
精霊達は呑気に万能説を否定した。
「まあでも僕らが守護精霊としている限りは、風の魔力だけならアンは万能〜」
「魔力量国一番の兵器並〜」
「え、じゃあアンはやっぱり万能じゃないの〜?」
「「「やっぱりアンなら万能〜(今のところ風魔法のみ)」」」
と、精霊達は『かっこ今のところ風魔法のみかっことじ』まで声を揃えてのんびり肯定し直した。
「...でも、私は一人じゃ何もできない普通の人間だわ。だから、万能なんかじゃない。かわいい精霊様達がこれからも一緒にいてくれるのがとても嬉しいわ!一人で王都に行くのは実を言うと不安で寂しかったの。これからもよろしくね。」
「「「わーい、アンに喜んでもらえた〜!」」」
精霊達は喜びを伝えようと、風の力でアンの目の高さまで大ジャンプをしている。とても喜んでいるが、呑気というかやる気のない声なのがこの精霊達の特徴のようだ。穏やかな性格とでも言っておこう。
(それにしても、アンになら精霊様達の姿が見えるなんて…これだけは私からも説明ができないねえ。)
と、祖母は顎に手を当て、悩ましげなポーズをしながらその様子を見ていた。