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魔法の紅茶専門店  作者: ミイ
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049.魔道具による伝言



グレイソンが部屋を出て、扉がパタンと閉まる。


その途端、アンは顔を赤くしてへなへなと座り込んだ。



「〜〜〜っ!!!恥ずかしかった...!!」


アンは今更顔を赤くして白タヌキを確保すると、そのもふもふに顔を埋めた。


「顔を見ると恥ずかしくて、お礼とか口付けのこととか話題にできなかった...!ご飯を食べるくらいの時間があれば、絶対に言えると思ったのに...」


アンは小さく呟き、ぷくっと頬を膨らませた。今日のグレイソンの美味しそうにご飯を食べる顔を思い出した。


「次こそは、ちゃんとお礼をきちんと言わなきゃ...。腕、やっぱり怪我してたな...。もっとちゃんとした魔法付与をすればよかった...。」


アンにはしっかりとグレイソンの左腕の包帯が目に入っていた。





....




「あの...」



グレイソンが来てから1週間後、アンはジャスパーに意を決して話しかけた。ジャスパーが珍しい出来事に、剣を磨く作業をする手は止めずにグリンッと顔だけをアンに向けた。


「はい、いかがいたしましたか?」


作業する手の動きが早いのに、首の角度がおかしいと思うほど顔はしっかりこっちを見ているから怖い。


ヒィッ!とアンは小さく悲鳴をあげると、ちょうど近くを通ったテディを捕まえて盾にする。


「アンはまだジャスパーに慣れないね〜」

とテディはニコニコ仲介をしてくれる。


「あ、あああああのあの、そそそ素材を...」

アンがうまく言葉を紡げずにいると、ジャスパーが首を傾げる。作業する手は止まらないから余計に怖い。


「素材を取りに行くにはどうすべきか、ジャスパーに聞きたいのかな?」

アンが皆まで言わずとも汲み取ってくれるテディに、アンはただただカクカクと頷く。


「素材、ですか。私に聞くということは、魔物素材という事ですよね。」


アンはテディの背後からヒョコッと顔を出すと頷いた。


「なるほど、基本的に私は自分でも鍛えているので一人でも行きます。ですが、高ランクの魔物を狩る必要がある時や、女性・商人などは冒険者や騎士団に護衛を頼むのが普通ですね。」


「なるほど...。」

アンはまだ知り合いが少なく、さすがに騎士団長にお願いするのも気が引けたため困ってしまった。


「もしくは、私と行きますか?」

ジャスパーはようやく作業の手を止め、アンに向きなおった。そして、磨いていた剣をキンッ...という無駄のない音だけで腰の鞘にしまった。


「ほんっと、声を発せず立っているだけだとジャスパーは、ただの強くてかっこよくて腕の良いだけの魔道具師だよね...。」

テディがのんびりと言う。


「む、声を発しなければいいのか?」

ジャスパーはそれを失礼だとも何とも思わないように、返事をした。


「うーん、動作とか表情もたまに難ありだけど、概ねそんなところかな。」

テディはニコニコしながらも、かなりハッキリと難ありと言い切った。


「なるほど、気をつけよう。」

ジャスパーは素直に受け入れた。


アンはひとまずテディの背後から出てきて、素材収集をするために東の森に向かいたい事を伝えた。


「東か...。そこならば、奥まで行かなければ高ランクの魔物はほとんどいない。どのあたりまで行きたいのですか?」

ジャスパーは連日会っているうちに幾分落ち着いたものの、ポートマンの血筋であるアンには、まだ敬語で話していた。


そして、素材や魔物の出没地域をマッピングしたジャスパーお手製の地図をテーブルに広げてくれる。


「うわ...すごい細かな情報が書き込まれていますね。どのくらいの期間で作り上げたんですか?」

アンとテディはその地図の完成度の高さに、目を見張る。


「父の代から受け継いだものだ。約53年9ヶ月と3週分の情報といったところだろうか。引き継いでからは地図自体を魔道具として、採取した素材や倒した魔物は勝手にマッピングされるようにしたから大したものではない。」

ジャスパーは真顔で淡々と説明する。"約"で、答えたはずの期間が妙に細かい。


「いや、地図を魔道具化すること自体がレアなんだけど...。」

テディは口の端が引き攣っている。


「それで、東の森で何を採りたいんでしょうか?紅茶の素材であれば、入り口付近で採取できると思いますが。」


「あ、ええと...防御や回避力向上に関する魔法付与ができる素材がとりたいんです。防御特化のメタルタートルやゲイルラビットです。」


「なるほど...。東の森でそれらの素材ならば私でも問題はないでしょう。」

ジャスパーは少し考え込むような素振りをした。


アンはグレイソンの怪我を見た時から、騎士団の仕事の危険性について考えていた。少なくとも、グレイソンの左腕の包帯を見て、前回の魔法付与では防御力は全然足りていなかったのだと思った。


鎧の上からでも魔物の攻撃は容易く通るのだろうと想像がついた。風の最高位精霊の3匹にも相談したが、いくら魔力量の多いアンと最高位精霊達の力でも正しい効能の媒体が無ければ完璧な防御はできないそうだ。


本来、風魔法は重い物理攻撃への防御は向かないらしい。そして現在、そういった事に向いている土魔法の上位精霊はこの国にはいないと教えてくれた。


防御特化の魔物を市場でも探したが、害が無いために逆に討伐もされず素材が市場に出回ることは殆どなかった。





そこで、アンは意を決してジャスパーに話しかけたというわけだ。





「おい、アン。」

アン達は急に声をかけてきた主の方を振り向いた。


「はい、なんでしょうウィルさん...??」


「少し話が聞こえたが、素材収集に森に入るのか?」

ウィルが近づいて来た。


「そのつもりです。」


「一人じゃなくジャスパーと行くにせよ、お前は騎士団に報告と、それから護衛を頼んだ方がいい。」

そのウィルの一言に、アンは恐れ多いと首を横に振る。


「ありがとうございます。でも精霊様がいてくれるから、大丈夫だと思います!」

アンは軽く答える。


「〜〜〜っ違う!お前は自分の力がどれ程貴重か分かってないだろ!既に王宮からも呼ばれる程に目をつけられているお前が!わざわざ騎士団長がちょくちょく監視に来るようなお前が!何かあったら国をあげての一大事!大・捜・索だ!」

ウィルはアンを指差して、近距離からガルガルと詰め寄った。


アンはまたテディの背後に隠れようとするが、ウィルの最もな意見にテディが「ごめんよ」とだけ言ってしゃがみ回避されてしまう。


もっとも、騎士団長のグレイソンがちょくちょく来るのは監視目的ではないのだが...。


「わわわわわ分かりました!!!」

アンは必死に敬礼のポーズを取って、了解した旨をアピールする。


「全く...ひとまず騎士団にはジャスパーもいつも世話になってるよな?一緒に行ってやってくれ。」

ウィルはため息をつきながらジャスパーに依頼する。


「了解。」

とジャスパーは最低限の言葉で返す。そして、魔道具に伝令を書き込むと、その場で窓から放った。


魔道具は窓から出るとすぐさま鳥の形となり、飛んでいった。


「ジャスパー、今のは?初めて見たよ。」

テディが尋ねる。


「騎士団にメッセージを投げた。護衛担当が決まり次第帰ってくる。...あ、いつ行くか書くの忘れた。いつがいいですか?」

またジャスパーは首だけでグリンっとアンの方に視線を投げる。


その動作の不自然な滑らかさに、ヒィッ!とアンと後ろにいたお客様が肩を上下させた。


「えーと、お店がお休みのタイミングだとお客様にご迷惑をおかけしないかなと...あ、でもジャスパーさんと騎士団の方の都合次第ですかね...」


「それならば問題ない。騎士団は固定の休みはなく輪番体制だからいつでもいいはずだ。」

ウィルがアドバイスする。


「では、次の休みのタイミングですね。」

ジャスパーはサラサラと魔道具にメッセージを書き込み、また同じように窓から放った。が、今度の鳥は行き先を迷ったかのように一旦ジャスパーの手にちょこんと帰って来てしまった。


ジャスパーが眉間に皺を寄せ、方角を示すと再びパタパタと飛んでいった。


「魔道具も方向音痴ってあるんだね...。」

テディが物珍しそうに飛んでいく鳥の形をした魔道具を見送った。


「...あれは私が最初に作った試作品だ。私自身が王都の土地勘が無かった頃に作ったせいだろう。魔道具も一つ一つ個性がある。」

ジャスパーが少し照れたように答えた。


その様子にアンのジャスパーへの怖さが少し緩み、アンも笑顔になった。







だが、この後アンはジャスパーに伝言を任せた事を心の底から後悔することとなる。

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