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魔法の紅茶専門店  作者: ミイ
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039.看板タヌキ


それからの1週間、アンは王宮に呼ばれたことも、グレイソンからのことも何も無かったかのように穏やかに過ごしていた。


紅茶に関してはお客様からの評判・売り上げも上々だった。ウィルとも相談して、パン屋から早めに独立する方向で動いていた。


紅茶の種類も増やして、スコーンや精霊達ご所望のチョコレートクッキーなども置きたい。パン屋とキッチンを分けられたら、お客様のための特別なオーダーメイドの紅茶にも取り組みたい。



やりたい事は沢山あるし、やる事は尽きない。






...いや、むしろ尽きては困るのだ!






アンは結局、あの時のグレイソンの行動が何だったのかは聞けていない。本人と会う機会などなかったのだ。だからと言って、王宮に乗り込んでまでグレイソンに聞きに行くわけにもいかない。


本当にアレは何だったのか...などと考え始めてしまうと、あの時の陽の光に透けて輝くグレイソンの髪と輪郭と、目線を思い出して、顔が火照り悲鳴をあげそうになるのだ。


良かったことがあるとすれば、一瞬すぎて手の甲への口付けの感覚はほとんど覚えていないということだろうか。


あの後に、割と平常心で帰って着替えてすぐに寝れた自分を褒めてやりたい。疲労がいい役割を果たしたとも言えるが。


そんなことを思い巡らしながら、アンはため息をつく。





「「はぁ...。」」





二重にため息が出た気がした。振り向くと、クロエも振り向いた。どうやら、クロエも同時にため息をついていたらしい。


「ど、どうしたんですか?お二人がため息だなんて...」

ここ数日は店番をしながら、魔道具の改良に四苦八苦しているジャスパーが、心配そうにこちらを伺っている。


「あ、いや...何でもないのよ!」

と、クロエは誤魔化すが、確実にヘンリーの事だろうとアンは想像がついた。


「紅茶専門店のオープンについてですよ。」

と、アンも誤魔化す。




そのとき、突然足下にヒュッと何かが触れた感覚があった。クロエは何かわからず、ひとまずサッと避けた。


「え!?...あ、白タヌちゃん!?」


「ぶにゃあ〜ん」


足下を見ると、家にいるはずの白タヌキがいた。なぜだ。


「アンのペットなの?」

クロエが白タヌキをそっと持ち上げる。


白タヌキは美人なクロエに抱っこされたことに、満更でもなさそうにゴロゴロと喉を鳴らしている。


「あ、一応そうなんです。すみません。」

アンはクロエから白タヌキを受け取る。


「ふ〜ん、変わった見た目ね...虎?」

クロエは白タヌキに微笑みかけながら聞いた。


「にゃごぉー!(この人好き!)」

はじめて当ててもらえたのだろうか、なんだか白タヌキが感極まってるように見える。


「な〜んてね!ウソウソ、どう見ても可愛いタヌキよ。ごめんごめん!」

クロエはアンの手の内の白タヌキの頭を撫でて花屋に戻って行った。その後しばらく白タヌキはショックを受けていた。



「あ、アン〜!」

「昨日寝る前に行ってたヤツ〜」

「白タヌでいいんじゃないかと思って〜」


白タヌキを連れてきた張本人達がやってきたようだ。


「え!?うーん、どの話だっけ...?」


「え〜ひどい〜」

「ホラ、看板猫とかほしいって。」

「あと治癒系の魔物素材がすぐ手に入ったらいいのに〜とか〜」


なるほど。たしかに精霊達の前でそのようなことを言った。


昨夜アンは紅茶専門店の店名とロゴをどうしようか悩んでいた。『白亜の本屋の紅茶屋』だと、さすがにイマイチだ。それに、クロエの花屋は、ユヌフルールという。テディのランドリーはホワイトランドリー。他の店も、皆きちんと名前があるのだ。



「看板猫...いたらお客様も喜ぶかしら?白タヌちゃん、やってみる?」


「にゃにゃあ〜ん!(見て!やれる!)」

白タヌキはポージングをする。なんだか背中が痒いみたいな格好だ。


「まぁ...治癒系の魔物素材...と考えれば確かにあってるわね。毛とか切っていいのかしら。」


基本的に人の話を聞いていないジャスパーだが、アンのこの言葉にだけはジャスパーの並々ならぬ視線を感じた気がした。気のせいではない、手に持っていた刃物をしっかりこちらに向けている。


「んに"にゃっ!?(切るの!?)」


「アン〜そこはこないだみたく〜」

「白虎なら息をフゥッだけでも十分〜」

「ハゲた看板猫はどうかと思う〜」


「あぁ、そうね、そうよね。」

アンは自分の発想が危うかったことを自覚した。


「ぶにゃあ〜...(セーフ...)」


「うーん、でも何でやってくれることになったの?」


「白タヌキってば〜働かない〜」

「アンのごはん沢山食べる〜」

「太ったから労働義務〜」


「あぁ...」

アンは苦笑いしながら頷く。


どうやら3匹は妥当な判断を下したようだ。白タヌキからは、3匹から遊ばれるのを回避したい目的が透けて見える。


アンは少し考えた後、結局は白タヌキを看板猫代わりに仮採用することにした。この日以降、白タヌキはジワリジワリと客の心を掴み、リピーターを獲得していく。だが、それと比例して餌付けが増えることで丸さは増していくのだった。



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