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魔法の紅茶専門店  作者: ミイ
35/139

035.狐目の男



アンは紹介してもらった服屋で、王宮でも問題のない服を急ぎ仕立ててもらっていた。美しい仕立てでありつつ、派手すぎない深い青のドレスだ。刺繍はアンの瞳に併せて金の植物の模様が施されている。


そのドレスに身を包み、アンは白亜の本屋で王宮からヘンリーが迎えに来るのを待っていた。


アンのその姿に、ウィルやクロエ達が騒いだのはいうまでもない。


「アン〜!アンタ美人だとはいつも思っていたけれど、きちんと化粧をしてドレス着たらこの国1番かもしれないわよ!!!」

と、クロエは大興奮だった。そんな国1番の美人かもしれない人間に言われても...と思いながらアンは受け流していた。


ウィルはウィルで子どもを嫁に出す前のような、ムスッとした感じだった。俺が拾ったのに、どこの馬の骨とも知らぬ輩に着飾られて王宮に連れて行かれる...という事が気に食わなかったようだ。それほどに既に身内のように思ってくれていることが、アンは嬉しかった。


そんな中、アンにはドレス以外のところで不満があり、溜息をついていた。




それは、ドレスの支払いについてだ。




アンは庶民のため、採寸前に恐る恐る金額を聞いてみた。するとなぜか、支払いについては完了しているとのことだった。


まだ作っていないものなので、完了するも何もないだろうと思った。だが、言い値で支払うとグレイソンの方から言われているとの事だった。


グレイソンからすると、今までのお礼の一部でしかないのだが、アンはオムライスの対価にしては高すぎると勘違いしていた。


「あのオムライス、あった食材だけだからそんなに高くもないのに...紅茶とアップルパイ合わせたって1,000コロンもしないわよ。」


アンは溜息とともに精霊達に愚痴を溢していた。



そして、白亜の本屋の前に馬車が止まるとヘンリーが店にやって来た。


「やあ、アン。久しぶりだね。綺麗になったな。スコットウォルズの村で会ったのはちょうど同じくらいの季節だったから、約1年ぶりかな?」


ヘンリーは長身の釣り目で、こげ茶の髪をしている。それに薄い水色の美しい瞳をしているので、話をしていると、なんだか吸い込まれそうな気がする。


ヘンリーが握手をしようと手を差し出すと、鍛え上げられた筋肉質な腕がチラッと見えた。


それを見たクロエが、美しい顔をピンクに染め、両手でハッと口元を隠した。


アンはそれを見逃さず、

(はは〜ん、クロエはヘンリーおじさんみたいなのがタイプなのね。)

と、変なところだけは鋭い感を働かせた。


「ヘンリーおじさん、ご無沙汰しています。18歳になってようやく王都に出て来ました。それで...早速ですがどうして私は王宮に招かれたのでしょうか?」


「あぁ、理由も書かずに申し訳ないと思っている。誰かに見られるわけにも行かなかったからね。


だが、ここでも話すわけにはいかないのだ。申し訳ないが馬車に乗ってから説明させてもらうよ。」


ヘンリーはそう言うと、ウィル達に軽く「すまないね」とだけ言ってアンを馬車に案内した。クロエは完全にヘンリーを目で追っていた...




...




「アン、久しぶりに会ったのに王宮へ来てもらうことになって、すまない。どうだ?こちらの暮らしには慣れたか?」


「ヘンリーおじさん、本当にビックリしましたよ。団長さんが持ってくるから何事かと思ったんですよ!」


「そうだよな、ただ...王宮ではおじさんと呼ばないようには気をつけてくれ。」


「おじさま?」


「変わらんだろう...。」


「はーい」


アンは本当に親戚のおじさんを対応するかのような態度だ。ヘンリーは王宮では滅多にされない呼ばれ方と扱いを楽しんでいた。


「それで、王宮への招待の理由だが、3つできた。」


「3つ()()()?」


「1つは、ポートマンさんが献上した茶器と同じ髪・同じ瞳を見てみたいという国王様の要望だ。


2つ目は...」


「ちょ、ちょちょちょちょっと待って!!さらっと1つ目を流さないで!!私今日ヘンリーおじさんに会うくらいだと思っていたから、何の気兼ねもなく来ちゃったじゃない!」


「いや、本当にただ国王の前に顔見せするだけで、すぐに下がってよいのだ。だから、用事の一つにも入るまい。


それで、2つ目は...」


「いやいやいや!国王様にお会いするのに、用事に入らないわけがないじゃない!」


「そうか?それで、2つ目は...」


アンは本当に何でもないことのようにサラリと流すヘンリーに、諦めるしかなかった。もう馬車の中なのだ。


ヘンリーに会うだけでよいならば、これだけの仲なのだ。ヘンリーが勝手に来るだけだっただろう。なぜそこに思い至らなかったのか自分を恨んだ。いや、祖父を恨むべきだ。


「2つ目は、グレイソン団長に渡した代物について知りたい。」


アンは、それは予想がついていたことなのでただ表情を変えずに黙っていた。厄介事に巻き込まれぬよう、肯定などしてたまるかと。


「そして3つ目は、先ほど白亜の本屋に行ってできた用事だ。あの本屋の仕掛けについて知りたい。」


「仕掛け?さっきのあの一瞬で何を見てたの?」


アンはこれは予想外だった。


「どう見ても高度な魔法付与がされていた。あそこの魔道具師は、魔道具師としては優秀だが殆ど魔力もなく、魔法使いの域には入らないような男だ。」


「祖父母の風魔法のことですね。」


アンはさすがにまだヘンリーにも魔法使い(見習い)であることを明かしているわけではないので、一応とぼけてみた。


だが、ヘンリーはニッコリとその釣り目を狐のように細めて笑った。


(あ、これ無駄なやつだ。)

一瞬にして悟ったアンだった。


「水魔法と風魔法の融合された仕組みのことだよ?()()使()()さん。」


(完全に見透かされてる...!!)

「おじさま...私まだただの見習いで、魔法付与もとても不安定です。おじいちゃん、おばあちゃんのような安定した魔法で役に立つことなどできません。なので、2つ目・3つ目の話はそれほど話せるようなことは...」




「認めたな?2つ目・3つ目ともに君が絡んだ事だと。」




口元は笑っているが、ヘンリーの水色の目の奥は笑っていない。やっぱり働き始めても自分はボンヤリのままだと、アンは自分がほとほと嫌になった。

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