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魔法の紅茶専門店  作者: ミイ
32/139

032.水魔法


グレイソンは食べ終わると、紹介状を明日従者に届けさせる約束をして帰って行った。


食器の片付けくらいはグレイソンがやると譲らなかったので、その日のアンがやる事は寝る準備だけで済んだ。


「騎士団長でイケメンで、洗い物までやってしまう気遣い...女性が放っておくわけないわね。」


アンはソファにもたれかかり、白タヌキを撫でた。


「団長さん、明日からの遠征で、怪我をしないといいなあ...。」




...




翌日、アンは白亜の本屋に1番に出勤していた。紅茶が予想を上回る人気ぶりで、仕込んでいた分だけでは不安だった。そこで、紅茶の仕込み量を増やすために早く来たのだ。


それだけではない、客席の片付けまでアン1人でやるのはかなりのハードだということが分かった。ウィル達も手伝ってくれるが、やはり他の店に負担がいくのは避けたい。何か方法を考えなければならない。


むむむっと悩ましげな顔をして、仕込み作業をする間もずっと考え込んでいた。


すると、


「アンどうしたの〜眉間にシワなの〜」


と、ブウが話しかけてきた。


基本的に店まで一緒に来てくれるのは、もはやブウに決まっていた。理由としては、飽き性なのと世話好きなので、アンにくっついてる方が性に合っているらしい。


「うーん...昨日沢山お客様が来てくれて、嬉しいけど片付けが全然間に合わなかったでしょ?でも今はまだ人を増やす余裕は無いし...とはいえ、効率化する方法が浮かばないの。」


「ふーん、水魔法じゃダメなの〜?」


アンは作業の手を止めて、ブウの顔を見る。


「え、私水魔法使えるのかな...?だとしても、ブウは風の精霊様でしょ?やっぱり難しいよね...」


「まあ、私の得意範囲ではないわね〜。でも、知り合いに声かけてあげることはできるの〜。


えー...とちょっと待ってね。


...あ、チャプなら来てくれそう〜」


「え!まさかもう連絡着いたの!?」


「やあ!ブウ。久しぶり。」


アンの驚きの声と、誰かの声がほぼ同じタイミングで響いた。アンは誰かと思い、後ろを勢いよく振り向いた。


「おっと、初めまして。風の精霊達がこのあたりに素晴らしい魔力の子がいるって騒いでる話は聞いてたよ。僕は水の精霊のチャプ。今ブウに呼ばれたけど、どうしたんだい?」


呆気に取られるアンを他所に、精霊達は話し始める。


「アンがね、紅茶屋をはじめたの〜。ただ、余りにもお客がひっきりなしだから、片付けが間に合わなくて困ってる〜。アンの魔力を渡す代わりに、助けてもらえないかと思って〜」


「お、それはいい提案をありがとう。君ら守護精霊に許可を貰えるなら、こちらから頼みたいくらい興味深いよ。噂のアンさん、よろしく頼むよ。」


「あ、えっと...アンです。水の精霊さん...?」


「うん。それで、何をどうしたいんだい?」


水の精霊は、少しせっかちなのかもしれない。サクサク話を進めようとする。フウ達よりは少しサイズが大きく、中型犬程の大きさだ。見た目はフウ達と似ているが、周りに幾つか本物の雨雲らしきものを引き連れている。


「えっと...お客様が席を立った後、カップを下げて洗うのと、客席を布巾で綺麗に拭く必要があるの。でも人手が足りなくて困ってて...」


「うーん、なるほど。アン、魔法も設計を上手く考えればより高度な働きをさせられるんだよ。この店舗の掃除は風魔法の仕組みが上手く回っているみたいにね。」


「設計...。」

機械系の仕事をしていたアンにとって、解決の兆しが見えてきた。魔法を組み込んである種システム化すればいいのか、と。アンは作業を分解して考える。


「カップを片付けるのはお客様にセルフでお願いすることはできる...。


洗い物入れに入ったカップは水魔法で汚れを落として、水自体も浄化。水から引き上げて棚に戻す間に、風魔法で乾かす。


誰もいなくなった客席は、水魔法と汚れを落として風魔法で乾かす。


こんな感じかしら?」


「いいね。大まかにはそれでいけると思うよ。ブウ、何回か試す必要はありそうだけど、アンの漏れ出ている魔力量からして余裕なんだろう?」

水の精霊が言う。


「正解よ、チャプ。アンの魔力量なら連続でも問題ないわ〜」


「なるほど。話が早い。じゃ、一つ一つの工程毎にやっていこうか。早速始めようか。」


...


それから、精霊達と試行錯誤して、片付けシステムが出来上がった。控えめに言っても最高だった。お客様にセルフで食器の返却をしてもらう必要もなかったのだ。


「これって主婦...だけじゃなくレストランや王宮食堂の労働についても常識を大きく覆えす仕組みよね...」

アンは素晴らしすぎる仕組みに、引きつった笑顔をしていた。


客が全ての荷物を持って店を出ると、風魔法でペーパー類などのゴミを片付ける。その後で水が食器類を吸い上げ、人間の導線より遥か上を洗い場に運んで行く。この精霊達は、意外と凝り性のようで、そこまで魔法で実現してしまったのだ。



その仕組みがちょうど出来上がった頃、ウィルが店に入って来た。


「いや...アン、これはなんだ?俺は夢でも見てんのか?」


「おはようございます。えーっと...まさに、夢の全自動食器洗い魔法ってところですかね!あはは!」


「アン、明るく元気良く返せば何とかなると思ってるだろ...。本当に魔法が使えるってのはスゲェな...。


これ、王宮にも同じ仕組みを入れろとか、変な注文入らねえよな...?」


ウィルの笑顔は引きつっていた。




「あ、今のフラグってやつよね〜」

「うん、完全にフラグだね。」


なんて精霊達は軽口を叩いていた。

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