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魔法の紅茶専門店  作者: ミイ
29/139

029.オムライス


「もう!団長さんは分かってませんね!ブルードラゴンは素晴らしいんですよ!」

アンはフンッと鼻を鳴らす。


「くくくっ...分かった分かった!」


アンの家に着くまでの間、グレイソンは腹を抱えて笑いっぱなしだった。


「アン〜その人毒キノコ食べたの〜?」

「魔法で治してあげる〜?」

「私たちでもそんな治癒魔法使ったことなくない〜?」


などと精霊達まで心底心配する笑いようである。


「まったくもう!着きましたよ!まだ引っ越しの木箱が片付いてませんし、材料にキッチンは占拠されてますが...くつろいでいてくださいね。」

アンは先に家に入り、グレイソンも続いた。


そして、そこでグレイソンの笑いは止まった。むしろピシッと固まったようにも見えた。


(待てよ...未婚の女性に、傷口を見せるのも躊躇ったのに、紅茶につられて家に押しかけるだと...!?)


グレイソンは扉に額をガンッとぶつけた。あまりの威力に、ちょうどアンの部屋の前を通った隣の部屋の住人がビクッと肩を震わせた。


(いやいやいや、やましい気持ちはない。だからこそ、躊躇いなくここまで来たんだ!


だか、やはり未婚女性...むしろ未婚だろうと既婚だろうと女性の家に一人で来るなど!!騎士としてどうなんだ!)


「団長さん?何してるんですか?どうぞ座ってください。」

アンは躊躇いなくグレイソンの団服を掴んで引っ張り上げる。


そして思考の絡まったグレイソンはノコノコと家に上がってしまった。家に上がると、紅茶の試作のための色んな香りがした。悪い匂いではなく、むしろとてもいい香りなのだが、この状況で試作と試飲をしていたら訳がわからなくならないのか?と思ってしまった。


グレイソンはひとまずリビングにある青色のソファに座る。目の前には白の可愛らしいローテーブルがあるのだが、ふてぶてしくも白いタヌキのようなヤツが陣取っていた。


白タヌキは「新参者がソファに座るなど生意気だぞ」と、尻尾でグレイソンの顔をペシペシと左右に叩きはじめた。白タヌキにとっては嫌がらせのつもりだった。


だが、

「お前、タヌキか猫かわからんが、もふもふ感は悪くないな。」

と、グレイソンは最早思考を放棄して、もふもふの往復ビンタを満喫しはじめていた。金色の髪がフワッと靡く。


アンはエプロンをすると、早速お湯を沸かし、紅茶の準備をはじめていた。


「それで、この手紙のことなんですけど...あ、白タヌちゃんちょっとごめんね。」


アンはお湯が沸くまでの合間で、手紙を出してきた。いまだ精一杯グレイソンに尻尾を叩きつける白タヌキをテーブルからどかし、布巾でテーブルを拭いてから手紙を置いた。


「ひとまず開けてみたんですが、何故私が王宮に呼ばれているのでしょう?詳しくは用件が書かれておらず、5日後に国王の側近の方が迎えに来るとだけ書いてあるのですが。」


「なるほど...。内容は想像がついていたが、私も中身を見せてもらったわけじゃなかったんだよ。これは私のせいで君を巻き込んだようで間違いないね。」


真面目な口調に真顔だが右手ではしっかりと白タヌキのもふもふを確保しているあたり、締まらない。


「どういうことですか?」

アンは困って眉がハの字になっている。


「申し訳ない、私がレッドドラゴンの件で帰還できずにいただろう?あの時、君は私の抉れた肉、折れた骨、そして古傷まで全て治してしまった。始末書を書くにあたり、諸々説明がつかなくなったんだ。


それで...王宮内の信頼できる人間にだけ相談をしたんだ。もしも、全回復どころか欠損や古傷まで治す治癒魔法のできる人間がいるなら、魔法使いの衰退したこの国では国家機密ものだからね。」


アンは黙ったまま頷くこともなく聞いていた。そこまで聞いたところで、お湯が沸いたのでアンは紅茶の準備に戻った。アンは紅茶をいれながら、話しはじめた。


「...もしかして、団長さんが相談した相手って、ヘンリーおじさんなんじゃないですか?きっとアンという名前と、紅茶の話をされましたよね?」


「え?そうだが...()()()()()()()()って言ってるのはまさか...国王の側近の話か?」


「はい。そんな話を信じて、すぐに私みたいなのに会いに来るなんて、おじさんしか浮かばなかっただけです。むしろ王宮の知り合いなんてヘンリーおじさんだけです。」


なら、あまり深く考えなくてもいいやとアンは明るい笑顔に戻る。


「いや、待て待て...知り合い!?君は何者なんだ!?」


「アンです。今は白亜の本屋で働いてます。」


アンは首を傾げながらのんびり答える。


ヘンリーは、側近として国王の絶対的信頼を得ている。剣では右に出るものは殆どおらず、その上頭が切れる。目をつけられたらこの国にはいられないとも言われている程の策略家だ。その実力から、王宮内で絶大な発言権を持つのだ。


そのヘンリーのイメージと、アンの近所のおじさん程度のイメージとのギャップがありすぎて、グレイソンは頭が痛くなってきた。


「アン、そんな感じの自己紹介は初対面でもしてもらったが...。まあ、君が大丈夫だと言うならそれでいい。ただ、ヘンリーはかなりの大物だよ。王宮に上がるための服装などは問題ないのか?」


「あぁ〜それに関しては問題大有りですね!服なんて殆ど持っていません。


うーん、ヘンリーおじさん以外の方ともすれ違うでしょうし、お店で仕立ててもらうしかないでしょうか?」


「うん、それは必要だろうな。私の方から紹介状を書こう。それを持って明日、王都の中央広場にある服飾店に行ってみるといい。ヘンリーに会うのだと伝えれば、適切なものを見繕ってくれるだろう。」


「そこまでしていただいてすみません、ありがとうございます。」


アンはお礼を言いつつ、グレイソンに「どうぞ」と言って紅茶を出した。


そして、アンは一度キッチンに戻り紅茶に少し口を付けた。アンは疲労回復効果がジワジワ出始めるのを確認すると、サッと立ち上がってキッチンに立った。


グレイソンは、そんなアンを見て、紅茶を飲もうとした手を止めた。

「...アン、何をしている?」


「え?夕飯まだですよね?私の分も作るので一緒にどうかと思いまして。1人分も2人分も変わらないので、せっかくならどうですか?オムライス。」


「え、あ、いいのか!?...それと、なんて?」


()()()()()です。まあ、出来上がりを楽しみにしていてください!」


この世界では料理はそこそこ発展しているが、オムライスはないのだ。アンはニヤリと笑った。

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