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魔法の紅茶専門店  作者: ミイ
22/139

022.乾杯


「うしッ!皆さんお疲れ様でしたー!!!」


ウィルの掛け声とともに白亜の本屋のテラスで、宴会がはじまる。皆の乾杯という声と、ガラスがぶつかる音が響き渡る。


サイン会は夕方本がなくなったところで終了した。それから30分後、コーヒー豆も花も売るものがなくなったということで早めの店じまいとなったのだ。ランドリー屋のテディも結局クタクタのようで今日は終了のようだ。


皆が囲んでいるテラスの長テーブルには、テディが勝手にウィルの財布で買ってきた食べ物と酒が溢れんばかりに乗っていた。


「いや〜サイン会なんぞ久しぶりだったな〜!」


「うちの人がご迷惑をおかけして...私まで来たもんだから、更に大変なことになって悪かったね。」


祖父はチヤホヤされるところをアンに見せられて、鼻高々なのだろう。上機嫌である。祖母は、申し訳なさのほうが先行しているようだ。


アンはやはり自分の村での価値観がガラガラと崩壊していく気がしていた。今日1日で、3歳くらい歳を取った気がした。


ウィルは上機嫌だった。

「アン、お前の家のことは秘密に...と思ったけどもうジョシュア達にはじいさんが挨拶して回っちまった!こうなれば、腹をくくるしかねえな!ンガハハハハハ!」


個人経営の本屋にしては、あり得ないくらいの利益が出たということだった。ホクホク顔である。心なしか顔も艶やかだ。


その後、アンはジョシュア達に謝りつつ、祖父母を紹介した。皆何故か緊張の面持ちで祖父母に挨拶をしていた気がする。


祖父母に緊張?うん、気のせいだろう。気のせいだ。今日はもう、アンもキャパオーバーである。サイン会で涙していた人もいた気がする。うん、気のせいだ。


だってただのご老人だ。


部屋の隅では、風の魔法がコロコロと何かをゴミ入れに吸い込んでいた。男達がクロエに渡した連絡先のメモ紙だ。うんざりしたクロエが床にちぎってバラバラと放り投げている。アンは、それとまとめて今日見た理解し難い光景の数々も、吸い込んでほしい...と思っていた。


宴会は短時間で終了し、各自が店の閉め作業に戻って行った。


そして、祖父は店に持ってきた茶器についてアンに教えてくれた。

「私の茶器は全て置いてあるよ。全て同じサイズだが、絶妙に色味やデザインは異なっている。ティーカップとソーサーだけじゃなんだから、グラスやスプーンも持ってきてある。アンならきっと客に適したカップを選んで出してやることができるだろう。」


「おじいちゃん、ありがとう!グラスやスプーンまで...。集めなければいけないものが沢山で気が重かったの。とっても嬉しい!」


祖父は喜んでもらえて分かりやすくデレデレしている。それから、祖父母はウィルを呼んだ。


「ウィル、うちの子を拾ってくれてありがとう。職場選びだけが心配だったんだ。田舎しか見たことのなかったこの子に、どうか王都の価値観を教えてやってもらえると嬉しいの。」


「そんな...恐れ多いです。以前にも、こんなちっぽけな店舗に風魔法を付与していただきましたし、今日のことだけでも返しきれない恩があります。


こんなに沢山のポートマンの商品を融通していただいて、うちが街一番の店になっちまうんじゃないかと...」


ウィルは必死に頭を下げていた。アンはそんな大袈裟な、と思って聞いていた。そして、ここの風魔法ってうちのおじいちゃんのだったのね、と納得がいって少しスッキリしていた。


ちなみにウィルは、頼んだ魔法使いがポートマンだということは、アンと出会ったその日に言っていた。が、アンは話半分でやはりちゃんと聞いていなかったようだ。


そして、祖父母は皆に別れの挨拶をすると、店から出た。アンもそこで祖父母とは別れた。母のことも気になるので、精霊達に送ってもらって泊まらずに村へ帰るらしい。


アンは大きく手を振って2人を見送った。




「あ!


風魔法での移動時間の圧縮の件、やり方聞きそびれた!むしろ聞くべきこともっと沢山あった気がする!!!」



アンはガッカリして肩を落として店内に戻った。








その時






「ん?だあれ?」

と、背後から男の声がした。


「あ...」

アンは客だろうかと振り返り、声をかけようとした。


すると、男はドサッ...と手に持っていた荷物を全て落とし、涙目でウィルの方へ走っていった。アンの長い髪がその風の影響で自分の顔面にかかる。





「...ポポポポポポポポートマンさんの、サインンンンンンンンンンン!!!!!!!!」





ウィルはちょうど店に飾るためにお願いしたサインを壁にかけようとしていたところだった。



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