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魔法の紅茶専門店  作者: ミイ
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020.開店準備と来客


アンは初出勤日以降、日毎に忙しさが増した。初日は開店準備のために、ウィルに教えてもらった茶葉が売っている店と、魔物の素材屋を巡った。


それから、祖父に頼んで客に出す茶器を送ってもらうことにした。せっかくなら祖父お手製の方が個性のある店になって良いだろう、くらいにアンは思っていた。


また、どうしても手に入らない茶葉は、自分のアパートのベランダで育ててみることにした。幸いにも広さと日当たりは十分である。種子や苗は祖母に譲ってもらうことにした。育てることに関しては、昔からしっかりと手伝いをしていたので得意分野だ。


今日は、そのためにベランダにプランターを準備していた。


アンは引越しの荷解きもまだまだできていない。積み上がった木箱の上が白タヌキの遊び場になっている。


「まあ、まずは脱ニートには成功したわ!」

アンはベランダでひとりガッツポーズをとる。


「これであなたが食いっぱぐれることもないはずよ。」

アンが白タヌキを指差して言う。白タヌキは機嫌よさそうにゴロゴロと鳴いている。


すると、どこかに出かけていた精霊達が戻ってきた。


「アン〜」

「伝言〜」

「せ〜のっ」


「「「おじいちゃん、着きま〜す」」」


「へ?おじいちゃん??」


と、アンが呆気に取られていると、玄関のベルが鳴った。




『ジリリリリッ』




ドアを開けると、祖父母が立っていた。




「かわいいアンやーーー!まだそれほど時間は経っていないが、また可愛くなったんじゃないか?」

祖父は80近いというのに、元気そのものといった様子で王都までやってきた。


「おじいさんったら、開口1番それなの?アン、元気にしている?」

祖母はきっとそのお目付役で来たのだろう。2人ともいつもよりおめかししている。


「おじいちゃん!おばあちゃん!!!え、え〜と来てくれてありがとう、元気よ。元気だけど...いきなりどうしたの!?というか昨日フウ・プウ・ブウにお願いして伝言を伝えてもらったはずだから、1日もせず王都に着いたってこと!?あり得ないわよね...??」


「なーにを言ってるんだ、きちんと訓練すれば風魔法は移動時間の圧縮など簡単簡単!」

祖父はハッハッハッと快活に笑う。


「アンは精霊様を名前で呼んだりして、まったく...そしておじいさんはいつも色々と説明が足りないんですよ...」

祖母は祖父を肘で突く。


「ところでアン、精霊様からお店を始めるかもしれないって聞いたけれど、思ったよりも早かったわね。


私の方でやっているポートマンの紅茶専門店との兼ね合いで、いくつか注意点を伝えるために会いに来たの。」


「おばあちゃん...それより!村で紅茶屋さんって言えばおばあちゃんの店しかないじゃない?村の人はわざわざ『ポートマンの紅茶専門店』って言わないし!だから、おばあちゃんの店の事だと思わなくて恥ずかしいことになったわ...」

アンはぷくっと頬をふくらませた。


アンにとって祖母の店は『紅茶屋さん』か『アンのおばあちゃんの店』でしかなかったのだ。看板も紅茶のカップのマークしか出していないのだから、無理もない。


「あらあ〜言われてみればそうだったかしらねえ〜!お爺さんだけではなく、私もうっかりしてたわね!」

祖母はウフフと笑って誤魔化した。


「さてと、私はウィルの小僧の店に、茶器を置いてくる。先に行っとるぞ。」

祖父はそう言って先に出て行った。アンは特に疑問に思わず生返事だけして祖父を送り出してしまう。



そのせいで店に、ポートマンの茶器の店主が来たと後々大変な騒ぎになってから、アンは到着することになる。



「さてと、アンから私が頼まれたものはここに全部入れてあるわ。」

祖母は種子と苗を入れた小箱を渡した。


アンはお礼を言って受け取ると、それをテーブルの上に置いた。


「それでね、注意点についてなんだけど、ポートマンの紅茶専門店の価格は知ってる?」

祖母は心配そうな顔で聞く。


「それ!全然分かってなかったんだけど、村の人達に売ってるものと王都に卸してるのって価格違うの?」


「正確に言えば、卸しているモノ自体が違うのよ。ただの紅茶なら一般的なカップ一杯の金額に+50コロン程度。王宮に納めているものは、ポーション相当ならばポーションと同等の価格。つまり、70,000コロンくらいね。ポーションを超える物理的な欠損などを治すものだと150,000コロンくらいかしら。


私としては材料費はさほど高くないのだから、もっと価格を下げてもいいのだけど...それ以上下げると他の紅茶や医療品の価格が大暴落を起こすって、止められているのよ。」

祖母は苦々しい顔をする。


「150,000コロンって...一般的な騎士の月収レベルって聞いたことある...」


アンは祖父母の商品に関する金銭感覚が、人とはズレていることを察した。たしかに物理的欠損を月収1月分で治せるくらいなら安い方なのだろうが...騎士の給料は中級階級貴族くらいのものである。


ということは祖父の茶器の方はどうなっているんだろう?と先に店に向かわせてしまったことを若干後悔しはじめた。ウィルにもさらっと教えてもらったが、詳しい金額としては聞いていなかった。


「ってことはそういった効能付与があるものは、簡単に渡してしまうと危険ということなのね。


紅茶ひとつでも効能が付くと値段の決め方がややこしいわね。」


アンは理解したことを確認する。そして、チラッとなにか忘れているような...と思ったが、一旦はまあいいかと後回しにすることにした。

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