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魔法の紅茶専門店  作者: ミイ
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002.マーケット

読んで頂きありがとうございます!


アンがマーケットへ出かけた後、祖父母は静かな家の雰囲気に耐えかね、溜息をついた。思えば2歳のころからアンを育ててきたのだ。


「あの子は...こんな不遇な生い立ちのためにぼんやりとした子になってしまったのかねえ。やはり私は心配で...。」


「ばあさん、それは関係ないだろうて何度も話したじゃないか。あの子のもともとの性格と、前世の記憶がそうさせているんじゃろう。」


アンは2歳の頃にこの家に住むようになった。小さな頃のアンはお世辞抜きに天使のようなかわいさだった。わざわざ近所のガキ大将がアンにちょっかいを出しに来るのは日常茶飯事だった。アンが揶揄われて泣いていると、慰めたり相手の子を嗜めるのは祖父母の役割だった。




アンの父親は外面こそ良かったものの、家では少しでも気に食わないことがあるとすぐに手が出るタイプだった。


家族への愛はないのか、週末はふらふらと出かけてはタバコをふかし、平日は酒を飲んでばかりであまり帰ってきたイメージなどない。




アンが4歳の頃、家族にとっての事件は起きた。


作業場にいた父の荷物を持ってあげようと、幼いながらに手伝おうとした時のこと。


「お父さん!コレ、アンが持ってあげる!」


父に触れたところ、パチンと静電気にしては大きな音が鳴った。父はアンが引っ掻いたと思ったのか、腹を立て小さなアンを突き飛ばし、その場に置き去りにした。その冷たく憤った目は、子どもに向けるようなものではなかった。


ただの静電気。


そんなことで父は自分を置き去りにした。アンはポカンとして口が開いたまま、その場に座り込んでしまった。


家に帰ると、そのように母達に事情を話した。



そして...



母は帰ってこない父に対しても愛情を捨てきれなかったのか、心を病んで寝たきりとなった。





そうして、祖父母は両親に構ってもらえないアンのために、代わりに愛情をもって育て続けた。


とはいえ、アンにはいつも祖父母という心強い味方がいた。それに、心安らぐ友がいたことが救いだった。




それに、なんと言ってもアンは色々ついてる方だと思っていた。


祖父母がそんなアンに思いを馳せている頃、アンは村の中心にあるマーケットの入り口に差し掛かっていた。




「お、アンが来るな...?」


「この風は、アンだね。フフッ」


村人達は、アンが来るとすぐに分かる。

その姿を見るよりも早く、だ。


アンが来るといつも賑わっているマーケットにより華やぎ、賑わいが増し活性化するような気がしていた。


稀に、起こり得ない奇跡も起こることがある。


大雨後のゴミや汚れが溜まった市場が突風とともにあっという間にキレイになった。花屋の花は瑞々しさを取り戻し、蕾だった花がアンに買って欲しいと言わんばかりに開きだす。


アン自身は普段と自分が来ている時の違いなど知りようもないのだから、気づく事も無かった。


「ポートマンの子だ。」


「あぁ、大切なーーーーー様の愛しい子だ。」


村人達は、そんなアンを大切にした。


どうしたってアンの行先は、そんな奇跡が簡単に起きてしまう。皆そっと見守りつつも、アンには感謝を込めて笑顔で手を振ってくれる。



その中のひとりが大きく手を振りながら、アンに駆け寄ってきた。


「アン〜!」


アンはその声に振り向いて、笑顔を向ける。

「フレデリカ!」


「もうすぐ出発の日よね!私はまだ一月先だけど、家の窓からアンのことが見えたから内緒で出てきちゃった!」


「お母さんに怒られない?...でも来てくれてとてもうれしいわ!やっぱり幼なじみのあなたと過ごせるのももうちょっとしかないものね...。今日もまた私を心配してきてくれたの?」


アンは飛び込んできたフレデリカを、転ばないようにしながら受け止めた。その拍子に買い物カゴに入れていた財布が、チャリンと音を立てて跳ねた。


「...まあね!だってアンのことだから、買い忘れがあったりするんじゃないかって思って。」


フレデリカはニヤリとアンに向けて笑ってみせる。


「もう!私だってちゃんとメモ見て買えば大丈夫なんだから!」


アンはぷくっと頬をふくらませてみせた。


「まあまあ、ともかく日が暮れる前に買い出し終わらせなきゃでしょ?一緒にまわろ!」


「うん、フレデリカ、いつもありがとう。」


フレデリカはクスッと笑って、アンの手を引いて歩きはじめた。山の涼しい風に、フレデリカのミルクティ色のフサフサとした長い髪がたなびく。


フレデリカは、アンにとって大切な幼なじみだった。幼い頃はいじめっ子たちを2人でこてんぱんにしたこともあった。よく互いの家を行き来し、なんでも話せる存在だった。


2人は様々な店で用を済ませ、アンへの商売繁盛の感謝の意味を込めたサービス品を受け取っていった。



...



そして日暮れの頃。


「...つッッッッッかれたぁああああ」


フレデリカはドサッと両手に持った荷物をアンの家の玄関に置いた。


「おかえり!おやおやフレデリカじゃないか!アン、なんて量をフレデリカに持たせてるんだい!」

祖母がキッチンから玄関に出てきた。


「ただいまおばあちゃん...ごめんなさい、思ったより買い物が足りてなくて、それに色んなお店の人たちが当面来ないからってまた色々くれて...フレデリカに手伝ってもらっちゃったの。」


アンもグッタリとした様子で両手の荷物を玄関に下ろした。


「おばあさまお邪魔します!アンは親友だもの、手伝うのは構わないわ。でも聞いてください!アンったらやっぱり買い忘れてるものがたくさんあったのよ!付いて行って正解だったわ。...それに皆からのお礼の品も今日は倍量ってかんじね。」


フレデリカは半ば呆れ顔で肩をすくめた。


「まったく、アンはほんとに...。」


祖母はやれやれと首をふる。


アンはちょっと恥ずかしそうに下を向く。だが、祖母とフレデリカはそんなアンを毎日見守れるのももうあとわずかなのだと、さみしい気持ちでアンを見ていた。



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