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魔法の紅茶専門店  作者: ミイ
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018.出勤初日


アンはまだまだウィルにお説教されていた。



「アン、分かったか?ひとまず、お前を上手く使ってやろうとか考えるヤツらは、王都中に沢山いる。商人だけじゃない、貴族や王族だってそうだ。誰が信用できて誰が信用できないか、判断がつくまでは実家のことは知られるなよ。」


ウィルは真剣な顔をして言うので、アンはブンブンと首を縦に振る。


「ウィルなら安心〜」

小童(こわっぱ)いいやつ〜」

ウィル自身は精霊達のお墨付きのようだ。


アンは他の店への挨拶前に、気合を入れ直す。


「それじゃ、紹介するから皆中央のテラスに来てくれないか?」

ウィルがパンパンっと手を叩き注目を集めた。各店舗の店員がそれぞれの仕事に区切りを付けてから集まってくる。


その間、アンは改めて店舗をぐるりと眺めていた。


半円状の白亜の壁の店舗は、左からパン屋・花屋・本屋・魔道具店・ランドリーの順に並んでいる。1番広いのが真ん中の本屋で、他4つの店舗は同じ広さだ。天井は曇りひとつないガラス張りでとても高い。半円の真ん中部分はテラスになっている。


昨日はテラスのテーブルと椅子のセンスの良さが目についたが、それだけではなく店舗全体がとても緻密に計算され尽くされてできている。この国では木製のドアがあるのが一般的だが、この店は客が入りやすいようにドアもガラスもなかった。前世では魔法がなかったからドアのない店舗など考えられなかった。しかし、風魔法でドアが無くとも空調的にも防犯的にも全く問題がないらしい。魔法使いが少ないので、そな点は逆に安心なのだろう。


そして、店員たちが揃った。店員たちは全員、形は違えど同じ真っ白なエプロンをしていた。今いないのは魔道具店の者のみだ。


「アン、それじゃ自己紹介してくれ。」

と、ウィルが促す。


「き、今日からお世話になります!アンですっ!い、よよよろしくお願いします!」

アンは噛みまくったことに顔を赤くした。


「「「....ぶふっ...ククク...!」」」


ウィルはまさかのひどすぎる挨拶に、天を仰いだ。その場にいたウィル以外の人物は笑いを堪えようとしていた。が、漏れていた。


「ふふっアン、よろしくね。花屋のクロエよ。」


「くくっ...昨日もちょっと会ったけど、パン屋のジョシュアだ。よろしくな。」


「ランドリーをやってる。あまり店舗にいないことが多いけど、よろしくな。俺はテディだ。」


「よ、よろしくお願いします...!!」

アンは赤くなった顔を手で仰いだ。


「で、これが問題のアイスコーヒーだ!飲んでみてくれ!なんでこうなるか分かったら助かるんだが...??」


パン屋のジョシュアから、いい笑顔で物騒なコーヒーを突如差し出された。シャツをまくった腕はパンを焼くためにできたのであろう、火傷の跡がチラホラと見えた。とはいえ、無造作にクルクルとした髪の一部に焦げた跡があるのは、なぜなのだろうかとアンは疑問に思った。


「あら、それを早速試してもらうの?初日でこんな可愛い子がやめちゃうなんて私はイヤよ?」

花屋のクロエはとても艶やかな感じの大人の女性だった。出るとこの出た美しいカラダのラインが分かるタイトな半袖、デニムに真っ白のエプロンをしていた。花屋に似合いの赤毛の艶やかな髪が揺れると、ため息が出そうである。名前も見た目もこの国出身では無さそうだ。


「わー、オレは久しぶりにそのコーヒーを飲むやつの反応が見れるの、楽しみだぞ。」

ランドリー屋のテディは掴み所のなさそうな人物だ。男性にしては少し長めのふわっとした髪と、細身の身体で女の子のようにも見える。見たところアンと同年代くらいだろうか。


まあ、要するに飾りっ気のない自由な感じの気風の店らしい。白亜の壁と、共通の白いエプロン、そして各店舗を仕切る壁がないことが、それを強調しているような感じがした。


アンは周りを観察しつつ、ドキドキしながらジョシュアに渡されたアイスコーヒーを飲んだ。


「ウゲッ...!!」

一口で限界だった。イヤな雑味が口いっぱいに広がるのだ。かといって風味はあまりない。


どうしたらこんな事になるのか、と「ごちそうさまでした。」とだけ伝えてジョシュアにカップを返す。


「いや、俺だって美味しいコーヒーがいれられたらそれでいいんだが、どうにもやった事もないからなあ。」

てへへ、と照れた感じでジョシュアは言うがかわいくはない。これでは、不味すぎて逆に殺意を覚えられるんではないかとすら思う。


「私もあまりコーヒーに明るいわけではないんですが...どこのお店の豆を使ってるんですか?」


「ん?これだよ。」

ジョシュアはカウンターの奥から豆が入ったパックを取り出して見せた。


「うわぁ...」

見覚えのあるパッケージに、アンは顔が引きつった。祖母の紅茶屋に転がり込んで、作り方を盗んで行ったあの店のものではないか。

留め具を開けてみると、脂質酸化の進んだような鮮度の悪い、細かく挽きすぎたコーヒー豆が入っていた。


「ひとまず、豆を変えてみてはいかがですか?別の店から買った方がいいと思います。」

アンは豆をジョシュアに返しながら言った。


「ふーむ、そうだなあ...ま、詳しくないから任せるよ!コーヒーに拘っているわけでもないしな!ウィルとしては中央のテラスで飲み物が出せればいいんだろ?」

ジョシュアは軽いノリで言った。


「まあ、言ってみればそうだな。俺としてはここのテラスで飲み物を飲みつつ本を読み、花を楽しみ、パンを食べたり...自由に過ごせる空間が提供できればと思っている。


ランドリーも魔道具店も受け取りまでの出来上がり待ちの時間を、出来る限り楽しんでほしい。」


ウィルの意志を聞いて、アンは一つ提案がしたくなった。ただ、早速ウィルからの忠告に若干逆らうような気がしたので、後でコッソリ相談してみることにした。



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