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魔法の紅茶専門店  作者: ミイ
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017.他人の方がよく分かる


翌朝、アンはフウ・プウ・ブウ・白タヌキに向かって元気よく

「行ってきます!」

と言って家から出てきた。今日のお供はフウとブウだった。白亜の本屋が見たいらしい。


「ブウのやつ、やるよね〜」

「白亜の本屋好き〜」


今日は両肩にチョコンと精霊達が座っているので、アンの左右の耳は賑やかだ。


「アン〜ところで髪がくすぐったい〜」

「帽子被らなくていいの〜?」


「え?あ!しまった!帽子を家に忘れてきた!」


アンは既にアパートの外に出たところだったが、慌てて引き返そうとした。すると、上から「ぶにゃあ〜」という白タヌキの声がして帽子がフワッと落ちてきた。


「おっとっととととと!ナイスキャッチ!」

アンは顔の目の前で受け止めた。


「ないすきゃっち〜」

「ないす〜」


精霊達に拍手を送られた。


「白タヌちゃんありがとう!行ってきます!」

アンは3階の窓にいた白タヌキに向かって帽子ごと手を振った。


「ぶにゃ〜(結局白タヌちゃんなのかにゃ...)」



...



アンはウィルとの約束の時間の5分前に着いた。既にウィルは来ているようだ。そして、ランドリーだけはやはり既に開いている。花屋とパン屋は開店準備が整っている様子だった。


「ウィルさん!おはようございます!今日からよろしくお願いします!」

アンは帽子を取って深々とお辞儀をした。


「お、来たかアン。まずは皆に自己紹介からしていこうぜ。」


と言うと、アンを手招きして耳元でヒソヒソと言った。


「ところで、アンタはポートマンの紅茶屋の娘ってことはあんまり言わない方がいいぜ。悪用したがるやつが多すぎる。」


アンはこの忠告に目を見開いて驚いた。


「あれ!?そうですが、うちがポートマンって...言いましたっけ!?紅茶屋とは言いましたが...なぜご存知なんですか!?」


「な!まさか完全無自覚か〜!!!」

あちゃーっとウィルは頭を抱えた。


そしてウィルは、アンの実家の立ち位置について説教する勢いで教えてくれた。ウィル自身、(なぜ人の家の事をオレが教えるんだ...)とはもちろん思っていた。


「いいか、スコットウォルズの茶器と紅茶専門店と言えばそもそも一軒しかないだろうが。そして、スコットウォルズなんていうあんな小さな村を王都で誰もが知る地位まで押し上げたのは間違いなくポートマンの爺さん・婆さんだよ。」


アンは薄目になりながら、半信半疑で聞いていた。


「えぇー...確かに村には茶器・紅茶専門店は1軒しかないです。とはいえ、ただの田舎のおじいちゃん・おばあちゃんなんですけどー...」

アンはむむむっという表情をした。


「...っなわけあるか!!!ただの爺さん婆さんが王宮に出入りできるか?わざわざ辺境や王都から買い付けにわんさか人が来るか?」

実家を知らなすぎるアンに、ウィルが苦虫を噛み潰したような顔をした。


「うーん、言われてみればいつも人気でありがたかったですねえ。カドガンさんという方や王様の側近のヘンリーおじさんとかよく遠くからお茶飲みに来てましたし。」

うんうん、とアンは笑って頷いている。


ウィルは、マジで言ってんのか?と呆れた顔をした。


(カドガンさんってまさか、あの気難しい冷徹カドガン伯爵なわけはないよな...)

ウィルはさすがにそんなことはない、と頭を振る。




が、実際のところそんなことは...ある。




カドガン伯爵は公務上冷徹を貫く方だが、領地がスコットウォルズに近いのでポートマンの紅茶専門店でお茶をしている。息抜きとして愚痴を零しに来ているのだ。アンも幼い頃からよく遊んでもらっていた相手だ。カドガン伯爵は背が高いので、小さい頃は肩車をしてもらうのが好きだった。


「ポートマン夫妻の店は、王宮御用達の称号を貰っている。そもそもこの国にはなくてはならない格の高い魔法使いだ。


爺さんの茶器は魔法...以前に趣味が突き詰められて造形美として、バカみたいな高値が付いてる。そもそも普通の人には手が出せねえ美術品だよ。だが、それも本業じゃねえ。爺さんは王宮の魔道具に魔法付与を行ってるだろ?


それから、婆さんの紅茶に関しては王宮の魔法使いの若造が作るポーションよりも効能が上だ。紅茶以外の形でも騎士団に卸したりしてるはずだろ?


紅茶自体もそもそもの香りや味が一級品だが、それに魔法の効能が上乗せされるってんだから王族や貴族がこぞって買いたがるに決まってる。」


ウィルがそこまで説明すると、アンは驚きすぎて完全に固まってしまった。



...



その頃スコットウォルズ村。


「そろそろ、アンは王都で仕事を探し始めましたかねえ。」


「婆さん、そんなに心配しなくても大丈夫だろう。うちの店の名前を出せば、引く手数多じゃ。悪用しようってヤツが寄ってきたところで、守護精霊様が相手を叩きのめすだろう。」


「そうは言ってもねえ〜アンはいつも伯爵やヘンリー様がいらっしゃっても、あんまり事の重大さが分かってないところがあったからねえ〜」


「お偉い方々だと分かってはいたんじゃないのか?」


「肩車をせがむような子だったのに?怪しいところさね。まあ、アンが失礼したとしても、うち(魔法使い)の方が貴族よりは格が高いから、大丈夫でしょう。」


「ところで、アンもそろそろ『おじいちゃんったら実はとってもスゴイ!かっこいいのね!』って気付いてたりしないかのお〜?ワクワクするのお〜!」


「何がワクワクだか、全く...。アンタがサプライズだとか言って、魔道具師としての姿を教えなかったせいで余計に心配なんだよ。アンが世間知らずだと思われてるんじゃないかって。」


「まあまあ、おっ?ちょうど精霊様から伝言が届いたようだぞ。ふむ......おぉ、なんという偶然!ウィルの坊主のところで働くことになったそうな。」


「ウィルって...白亜の本屋かい?あぁ、あの子ならば一安心だね!あぁ、よかった!」


「次の王都への旅では、ウィルのところへ寄らねばなるまいな。」


「ふふっ楽しみがまた増えたようだね。」



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