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魔法の紅茶専門店  作者: ミイ
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016.白亜の本屋再び


「はあぁあああ...」


アンは帰り道、長い長いため息をついていた。


「私ってなんでこうもボンヤリなのかしら。前世はもう少しちゃんとしてたと思うのよね...。」


そう、実際にアンは前世では都会で生まれ育ち、意外にも機械系の仕事をテキパキこなしていた。とはいえ前世の方が圧倒的に都会でも治安が良かった。今世では農村で生まれ育ち、のんびりと平和に過ごしてきたのもあり、完全に環境差異なのだろう。


「機械相手はウソがなくて、ある意味ラクだったのかもしれないわね。」


「人はウソばっかり〜」

ブウは合いの手を入れる。


と、ブウは思いついたようにアンに提案をする。


「アン〜働くならさっきの本屋さんは〜?あそこはね〜ウソがないの〜。ブウ知ってる〜。」


「あ、なるほど...。ブウのお墨付きならば、そうね。もし募集してたらお願いしてみようかしら。食べていくためには、ともかく仕事が必要だわ!」


と、言いつつもアンは先ほどの白亜の壁の本屋がとても気に入っており、実はかなり心ときめいていたのだった。


(ブウがさっきウソがないか見てくれてたってことなら、安心できるわ!思い立ったが吉日よ!)


早速、アンはその足で寄ってみることにした。



...




「すみません、お客さん、今日はもう閉めるところで...ってお嬢ちゃん昼間来てくれた子だよね?どうした?」

ちょうど店主が店の戸締りをするところだった。他の併設店はランドリー以外もう閉まっている。店がある通りはまだ空いている店も多く、それほど暗くはない。この王都にはきちんとした外灯も多い。


「あの...い、いきなりすみません!人員募集してませんか!?」


アンは真剣な表情で必死に声を出した。


「あー、なるほど...王都に来たばかりで、まだ働き口決めてないのかい?」

店主は都会らしくない、よく言えば擦れていない、悪く言えば田舎者感のあるアンの様子を理解してくれたようで、いったん手を止めて話を聞いてくれた。


「はい。まだ昨日着いたばかりで、右も左も分かりません。あ!...本当はきちんとアポイントをとってお願いするべきでした。


...けれど、とにかく早く仕事を見つけて、王都での暮らしに馴染まなきゃと焦ってしまいました...いきなり押し掛けてすみません。」


なんだか最後は急に謝罪になってしまって、上手く言葉が紡げずアンは恥ずかしくなってきた。


「とはいえ、雇うにはさすがにまだ身元も知れねえからなあ。うーん、どうしたもんか...。」


店主はガシガシと頭を掻いた。けれど、真っ直ぐ話を聞いてくれた。


店主はアンの後ろの、チョロチョロとしたつむじ風を見ながら、

「これも何かの縁か、はたまた恩返しか...」

と、懐かしむように目を細めた。


そして、アンは帽子を取って両手で握りしめるように持つと、改めて気合いを入れて自己紹介をした。

「私はアンと言います!18歳になったばかりで、スコットウォルズの村出身です。祖母が紅茶屋をしているので、紅茶作りと紅茶をいれることは得意中の得意です!雑用でも何でもさせてください!」


「お嬢ちゃん、そうかい...。スコットウォルズ村か...。」

アンの美しい髪がサッと流れた時、店主は瞳の色にも気が付いた。


(あぁ、これはまさに何かの縁ってことだ...。恩返し確定だわなあ。)

と、店主はまたガシガシと頭を掻いた。スコットウォルズには、紅茶専門店はひとつだ。むしろスコットウォルズの紅茶専門店と言えば、この王都で知らない人は殆どいないのだ。


「うーん、俺は普段急な面接はしないんだが...今な、コーヒーがマズいパン屋があるんだなあー。


普通の人がウェイトレスをやってくれたら、あそこまでマズいコーヒーになることなんざ無いだろう。


そこでだ、まずは1週間お試し期間ってことでどうだ?」


店主はその筋肉質な腕を組んで、ニカッと笑った。アンは、喜びに満ちた表情で店主の顔を見た。


「...ありがとうございます!!!」


つむじ風がお祝いというように、アンの周りで花びらを舞い上げる。店主は急に舞った花びらに何が起きたと戸惑いつつも話を続けた。


「オレはウィルだ。よろしくな、アン。早速だが、明日まずは朝8時に店に来てくれ。一通りの説明からはじめよう。」


ウィルは右手をスッと差し出した。そしてアンはコクコクと何度も頷きながら、両手で握手をした。


ここがアンのはじめての職場となることが決まった。アンはスキップしそうなくらいの気持ちを抑えて帰って行った。


ブウもアンについて行こうとした。が、後ろからウィルに呼び止められた。


「あの......!そのつむじ風は精霊様、ですよね?いつぞやはありがとうございました。できれば...お宅の大事なお嬢さんをお預かりしますと、ポートマン夫妻にお伝え頂けますかね?」


つむじ風は了解したというように、近くの風に花びらを乗せて空に舞いあげた。


「...ハハッ!オレは魔法使いじゃないからなあー、見聞きすることはできんが、なんだか伝えて下さった気がするよ。ポートマン夫妻、元気かなー。」


再び舞う花びらを見ながら、ウィルは笑った。



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