015.詐欺はそこから
グレイソンにデコピンをされたアンは、おでこをさすりつつ理由が分からずにグレイソンに丸い目を向けた。
「むむむっ!?なんで!?」
顎に手を当て、悩ましいポーズをとりながらアンは考える。美人が台無しなマヌケな顔をしていた。
「アン〜グレイソン、かなり心配してるよ〜」
ついて来ていたブウが言う。
え、なぜ!?と、グレイソンがいるのに
アンは大きな声で聞き返してしそうになる。
「だって〜アンは詐欺にあいすぎなの〜」
「詐欺...?」
アンは鳩が豆鉄砲をくらったような表情で、グレイソンの顔を見た。グレイソンは、やっと気づいたかという表情である。
「アン、いいか?さっきの男はやたらと親切にしてきたり、人材紹介か何かの店で働かないか、などと聞いてこなかったか?」
「ええ!団長さん昨日から見てたんですか!?」
アンはドン引きする。
「おい...なぜ君が俺に引くんだ!そして、そんなことあり得ないだろ!俺だって忙しいんだ!
...ハァ。そうじゃない、度がすぎる親切には裏があると思った方がいい。人間には恩を受けると返さなくてはならない、という心理が必ず働く。小さな頼み事から始まり、気付けば大きすぎる頼み事を聞くハメになる。
例えば、ただ話を聞いて欲しい、というところから始まり、荷物を持って欲しい、家まで来て欲しい...そして金を貸して欲しい、これを買ってくれ...命を寄越せ...
まあ、本当にそこまでなるケースなんて殆どないがな。命を寄越せというのは、奴隷にされたり、人身売買されたり、身代わりで殺されたりってことだ。」
グレイソンは真剣な表情でアンを諭す。
アンはブルッと震えた。
「そういえば、トニーさんもやたらと親切でした...。昨日は子ども達にカバンを盗られそうになったのを助けれてくれて、そこから凄く凄く親切だったから、信じちゃいました...。」
「それに、俺は......自分で言うのもなんだが、この通りの目立つ見た目だ。騎士団長として誰もが知ってる。だからこそ、さっきの男は即座に逃亡を決めたのだろう。」
グレイソンは少し気まずそうに目を逸らして話す。
アンは自分の危機感の無さにガッカリして、服の裾を掴み、地面を見つめるしかなかった。
グレイソンは、言いすぎたとしてもこのくらいでなければアンは心配だとも思っていた。血みどろの自分をすぐに拾ってくれたくらいなのだ、よほど心根が真っ直ぐなのだろう。
「さっきの奴はな、騎士団でも目をつけていたんだ。普通の男に見えるが、プロの詐欺師だ。恐らくその盗みを働いた子ども達も、トニーが最初から雇っていたはずだ。」
更に告げられる事実に、アンは手で口を覆ってハッとした顔をした。なんだか、誰を信じればいいのか分からなくなりそうだった。
その時、
「アン〜私たちは風に混ざるウソの匂いが分かるから、それ程落胆しなくて平気なの〜」
と、アンの肩に乗ったブウがフォローした。
アンはブウの言葉に少し安心感を覚える。
(ということは、団長さんは今のところ信じてもいい人第一号よね??)
アンはあの時グレイソンに会えて本当によかったと、改めて思った。
「団長さん、本当にありがとうございました!この御恩は忘れません!そして...職探しは、騙されないように頑張ります...。」
アンがかなりしょんぼりしている様子を見て、グレイソンは肩をポンポンと叩いた。
「ま、もしまた何かあったら俺を頼ってくれ。気をつけて帰るんだぞ。」
「はい、本当にありがとうございました。」
アンは深々とお辞儀をして去って行った。
「ふうー...まったく、あの子は心配になるな。なんだか目が離せないような気がするな...。」
女性は全て煩わしいと思っていたために、こんな風に気になるのも珍しいと、グレイソンは少し微笑んだ。
またも通りすがりの奥様達に微笑みの流れ弾が当たり、昇天することになった。
「あっ!!!!!」
グレイソンは、今更ながらアンを探していた本当の目的を思い出して頭を抱えた。
「クソっ結局 治癒魔法の件を聞けてないあたり俺も抜けてるな...。」