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魔法の紅茶専門店  作者: ミイ
14/139

014.白亜の本屋

ブックマーク、評価ありがとうございます!


お一人ブックマークして下さった時には嬉しさに震えました。それがもはや10人超えていて、感謝しかありません...!!


期待にお応えできるよう、がんばります!


「アン〜」

「起きて〜」

「チョコレートクッキー食べていい〜?」


「ぶにゃあ〜(朝ごはん...)」


翌日昼前、アンはまだ寝ぼけていた。

「精霊さんたち〜??白タヌちゃんもそういえば精霊だったわね...


…って今何時!?」


「もう昼前なの〜」

ブウが答える。


フウとプウはまた白タヌキをいじって遊ぶのに夢中である。


「わ!ごめん!白タヌちゃんごはん作るわね!チョコレートクッキーは食べてて!」


アンは慌ててシャワーを浴び、その後手際良く料理をしはじめた。


「お待たせ〜!お腹空いたよね、ごめんね。」

アンは白タヌキのご飯を平皿に置く。猫まんまのようなもの(肉多め)だが、これでいいのだろうかと思いつつも白タヌキは不満はないようだ。


白タヌキはお腹が空いて限界だったのか、ガツガツと物凄い勢いで食べはじめた。アンはそれを見て白タヌキを撫でながら微笑むと、自分自身もフレンチトーストを作って食べはじめた。


夕方には約束がある。それまでにまた、足りないものの買い出しと、職探しを始めなければいけない。やることは沢山ある。


アンはフレンチトーストを軽く食べ終えると、サッと髪を束ね黒い帽子の中に入れ込んだ。昨日のようなことがあったのだ。新参者と分かりやすい、この目立つ髪は見えない方がいいだろう。


フワッとした青いワンピースを纏うと、ポシェットをしようとして、昨日ナイフで切られてしまったことを思い出した。


仕方なく大きなポケットの付いたワンピースに着替えると、アンはそれに財布と鍵を入れて出かけた。


今日もお供はブウである。


「痛い出費だけどカバンから買わなきゃいけないわね...あとは大きなリュックしか持っていないもの。」

アンは昨日の引ったくりの少年たちのことを思い出したが、忘れようとするように頭をフルフルと振った。


新居から10分ほど歩いたところに、ふと気になる店があり足を止めた。真っ白な外観、白基調の店内。天井の高い1階建ての本屋だ。床から天井まで本が所狭しと並んでいる。


「素敵な本屋さん...!だけど、あれ?なんだか本屋だけじゃなさそうね...」


「お、いらっしゃい。」

本屋の店主は、本を取るためのハシゴから降りると、外から覗いていたアンに気付き、気さくに声をかけた。


「あ、こんにちは...あの、ひとまず見るだけでもいいですか?」

アンはおずおずと聞いてみる。


「構わないよ、うちは花屋とか他の店も併設なんだ。好きなだけ見てってくれ。」

店主は爽やかな35歳くらいの男だった。本屋の割には筋肉質なその体型は、いささか不似合いなようにも思う。


「へえー...素敵なお店ですね!王都だとこの形式は当たり前なんですか?」

アンは店主の雰囲気に安心したように、店内に足を踏み入れた。


本屋は基本的に水気を嫌がる。それなのに、この国では珍しく、パン屋・花屋・魔道具店・ランドリーと不思議なラインナップの店がいっしょくたになっている。そしてその真ん中に、カフェのように飲み食いをしながら本が読めるスペースがあった。真っ白な長方形の長テーブルには、美しい花が飾られている。10脚ある椅子は、全て違う作りのヴィンテージ品のようで、繊細なこだわりが感じられた。


「いや、この店くらいだろうな。風の魔法をかけてもらって、同じ空間だが一応仕切りがあるんだ。だから、よっぽど他じゃあ真似はできないだろうな。」


アンはそういえば本屋に他の店の匂いが入ってきていないことに気が付いた。中央の部分からパン屋、花屋、ランドリーと移動してみると、その境から花やパン、洗剤のいい匂いがするようになる。


「ま、だから匂いで売り上げが決まると言っても過言ではないパン屋は外側なんだよ。窓から匂いが流せるようにな。」

店主はそう言ってニシシと笑った。


「なるほど〜!工夫されているんですね。魔法使いの方に知り合いがいるんですか?」


「ああ、()()()()()()()は気取ってない気さくな方でね、この店の匂いと湿気問題について困っていたところ、やってくれたんだよ。」


アンはへぇ〜っと相槌は打ちつつも話半分に、興味津々で店内を見て回っていた。


後ろではブウが

「懐かしいわ〜」

などと言っている。


「とはいえ、うちの店はなー、問題はパン屋のコーヒーが壊滅的にマズいってもっぱらの評判なんだよ!客が持ち込みを希望するくらいにはな!あ、パンは買って大丈夫だぞ。そっちは抜群にうまい。」

店主はガハハと笑う。


すると、パン屋が聞き捨てならないと出てきた。

「おいぃいいいい!カフェっぽい空間も欲しいって言うから俺が仕方なく飲み物出してんじゃねえか!うちはパン屋なんだ!喫茶店じゃないんだよ。」

怒ったように腕組みをしながらパン屋がツッコミをいれる。


そんな事が言えるくらい、仲は良いらしい。アンはクスッと笑ってパンだけ買い、また来ますと言って店を出る。魔道具店は閉まっているので、また開いてる時にこようと思う。



...



アンは他の用事を済ませると、一度新居に戻って荷物を置いてからトニーとの約束の場所へ向かった。


「時間には余裕があるわね...。散策しながら行こうかしら。」


アンはキョロキョロと街を見回しながら約束の場所に向かっていた。すると、どこから現れたのか、左目に眼帯を付けた女の子がアンの目の前に現れた。ふと見ると、洋服の右袖には右腕はなかった。その子はアンに向かって左手にもった缶を出してきた。


「う...う.........。」


喋るのも難しいのかしら?と、アンは不憫に思い、その子に1,000コロンを渡した。


「このくらいあれば、今日のご飯は大丈夫?」


アンは可哀想にと、その子の頭を撫でようと近付いた。すると、女の子はアンを警戒するようにすぐさま距離を取り、無いはずの右腕がスッと出てきてお金を入れた缶を両手に抱えてあっという間に逃げて行った。


アンが一瞬の出来事にポカンと呆気に取られていると、後ろから声をかけられた。




「アン!!!」

その人はかなり走り回ったのか、グッタリと両膝に手をつき、息を整えていた。


「見つけたぞ!君を見つけるのに休みを1日潰したが正解だったな...。そして髪を隠した女性を探した自分もナイスだ!」


アンがその声に振り返ると、見知った顔がいた。が、見知った顔だと理解するのに若干のラグがあった。


「........団長さん!?」

アンは少し観察し、目の前に立つ美しすぎる男が、血みどろだったグレイソンとようやく一致した。小綺麗な私服で、野営用ではない格好をしていたため、一瞬理解できなかったのだ。




とは言え、グレイソンの美貌だ。金髪と瞳を見て割とすぐに分かった。知り合いに会えたことに安堵したアンは、ホッとした顔をしてしまった。


「アン、久しぶり...ではないな、割とすぐに会えてよかったよ。急にいなくなるから礼をする事ができなかったじゃないか。」

グレイソンはフンッと怒ったようなパフォーマンスをして見せた後、フッと微笑んだ。


その時、アンは知らなかったが、微笑みの流れ弾に当たった向かいのアパートの奥さん数名がへなへなと腰を抜かした。


「それより、今の子、腕が生えてきたんです...奇妙すぎてビックリしてしまいました。いったいどういうことだったんでしょう...?」

アンは思い出したかのようにグレイソンに尋ねる。



「あ、えーと、アン、やっぱり君は人が良すぎることを自覚した方がいいな...。ああいう子や大人はこの格差が激しい王都内には沢山いるんだ。


王都に慣れていない人間を狙って、物乞いをしているんだ。腕が生えていないフリ、足がないフリ、倒れたフリ、目が見えないフリ...もちろん皆が皆嘘ではないが、そうやって稼ぐ方が効率が良いんだ。


だから...金銭を与えるのは悪いことではないが、気を付けた方がいいこともある。」


グレイソンはアンの優しさを思い遣り、金を渡す必要は無い、という冷徹な言い方を避けた。


アンは肩を落としてがっかりする。

「まあ、でも私は良い事をしたという気持ちをもらえたので、その対価と勉強代ですね。いずれにせよ、お金にはきっと困っているでしょうし...。」

アンは力なくではあるが、ハハっと笑って見せた。


「あ、ところで、団長さんもう怪我は大丈夫なんですか?あんな大怪我だったから、王宮で全治1ヶ月ほどになるかと思っていました。あぁ、さすが王宮の魔法使い様ってことですね!スゴイです!」

アンは早口で勝手に結論を出すと、目を丸くした。


「え!?いや、それなんだが...!」

グレイソンは訂正しようと、アンにストップをかけようとした。




その時、



「よう、アン!お待たせ、知り合い...か......?」

と、グレイソンの背後からアンに向かってトニーが声をかけたところで止まった。


「あ、トニーさん!」

アンは軽く手を振り、グレイソンは振り返った。


アンはグレイソンに向かって紹介する。

「こちらはトニーさんです。昨日出会って、昨日も子ども達に囲まれたんですけど...まあ、ともかく色々と助けて頂いた親切な方なんです。」


そして次にアンはトニーに向かい、

「トニーさん、こちらは... 」

と、紹介しようとする。


すると、まだ紹介しないうちにグレイソンを正面から確認したトニーは、チッと舌打ちだけして急ぎ走って行ってしまった。


「あれ...?どうしたんだろ...。」

アンは紹介しようとグレイソンの方にかざした手のやり場に困って変な動きをしてしまった。




「はぁあああああ。」

グレイソンは大きくため息をついた。そして、アンの頭に右手をのせ、頭をポンポンした後、ちょっと強めのデコピンをしたのだった。


「あいたっ!?」

アンは呆気に取られて、マヌケな声を出し、おでこを摩ったのだった。


アンはまたも、自身が世間知らずであることを思い知ることになる。





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