137. Time lullaby
「おじさん...。話を聞いてもらえない原因は、そういうところですよ。あんな純粋な子供相手に戦略も何もありません。
正・直・に・あ・り・の・ま・ま・話すんです!」
「...!?」
ヘンリーの怪訝そうな顔を見て、フウ達もニヤニヤしている。
「そうそう〜」
「ピュアがいちばん〜」
「シンプルイズベスト〜」
「まぁ、国の事を想えば戦略も考えたくはなりますが、でも相手は子供たちですよ?」
「うむ......」ヘンリーは腑に落ちてはいないようだ。
「私が一緒に行ってあげますから」
「それがいいぞ。アンみたいな子には子どもだって気を許すさ」カゲもアンに賛成のようだ。
「この歳にもなって、子ども心なぞ理解できない」ヘンリーはまた眉間に皺を寄せる
「もう、頑固ね。...あ、ひとまず紅茶を飲みながら話しましょう。」
アンは何か思いついたように紅茶の準備を始める。
アンは薄く魔法をかけ、紅茶を蒸らしている間に久しぶりに棚の上に置いてしまった祖父が作ったティーカップを出そうと、踏み台を用意していた。
その隙にフウ・プウ・ブウはティーポットに入った紅茶の周りに集まり出した。
「なんかたのしそう〜」
「ちょっとたのしそう〜」
「付与しちゃう〜?」
うふふふふ、とニヤニヤしていた精霊達だったが、アンがティーカップを手に戻ってくると精霊達は既にいつもの表情に戻っていた。
アンは紅茶を持ってヘンリーのもとに戻った。
「Time lullabyキームンです」
ヘンリーは顔には出さないが、間違いなくポートマンの紅茶の大ファンの1人であった。せっかくの機会に浮き立つ気持ちを抑えながら、品のある手つきでティーカップを手に取った。
アンが紅茶を注ぐと途端にスモーキーで花のような香りがし、一瞬強い水色に輝いた。独特の強い甘みを感じ、間違いなく馴染みのない味にも関わらず懐かしさを覚えた。
「不思議な感覚だ...。普段ならどちらかというと苦手な部類の紅茶だろうが、これはとても美味しい。」
ヘンリーは飲み干すと
「もう一杯いただけるだろうか?」
と笑顔でおかわりを要求した。
「えぇ、もちろん!」
アンは2杯目を注いだ。ヘンリーが笑顔で紅茶を楽しんでくれたことにアンは心が踊る。
ヘンリーはお礼を言い、2杯目の紅茶を受け取ると、茶器の美しさに気付く。
「あれ、このカップ... あなたと同じプラチナ・金・青のグラデーション!とっても綺麗ですね!」
「あ、気付いていただけました!?その茶器は祖父が私の18歳の旅立ちの時にくれたものなんです。私をイメージして作ってくれたというので、大正解です!」
「いいなぁ。こんなに綺麗なカップがあるなんて驚きました!」
...アンは違和感を覚えた。
「あ、あの、おじさま...?」
アンはヘンリーを覗き込んで質問する。
「おじさま、今のご気分はいかがですか?こう、懐かしい感覚を思い出せるような、輝いていた頃の記憶が蘇るような気はしませんか?」
「?」
ヘンリーはキョロキョロと周りを見渡す。アンが誰に話しかけたのかよく分かっていないようだ。
「お姉さん、私に話しかけてますか?」
ヘンリーはカップを落とさないよう両手でカップを持ち、コテンと首をかしげながらアンに質問で返した。
アンは「...やってしまった〜」と頭を抱えると、最高位精霊達に問いかけた。
「あなた達、ま〜た何かをしたの?」