136.潔く
「ああ、おそらく二人は関係ないと予想している。
だが...そうなると私が今追っている事件に、君の父か、あるいは別の闇の魔法使いが関係している。」
「...!」
アンは気持ち悪さを堪えた。父親や闇魔法について考えると胃の中を手でかき混ぜられたような気持ち悪さになってくる。15年も母が正気を失くしていたのだから無理もない。
「でも...。」
アンは続きを話したくなかった。体が鉛のように重く感じ、口を閉じる。
「君も予想は付いているだろう。魔法使いなどそうそういるものではない。それは闇魔法でも同じだそうだ。同じ闇属性の魔法使いが3人以上いるなど、まず考えられない。
ならば、十中八九君の父親だろう。」
「やっぱり...そうなのね。それで、事件というのは一体どんな?」
「...これは、箝口令の対象だ。協力者となってともらう君も、従ってもらう。」
アンはほんの少し逡巡し、重々しく頷いて了承した。確実に首を突っ込む...というより巻き込まれる事にはなるだろう。
その様子を見て、ヘンリーは再び口を開いた。
「第一王子の目が覚めないのだ。病の類ではないと、精霊様には既に見ていただいている。そして、闇に落ちた痕跡があるという事だけは分かった。」
「闇に落ちた、痕跡...?」
すると、アンの後方から風の音が鳴り、白タヌキが白虎の姿に変わっていた。どうやら補足をしてくれるらしい。
「ソノ者ノ思考モ気配モ、暗イ渦シカ見エナカッタ。普段、我々精霊ニ見エル、人ノ言葉デ、"オーラ" 二近イ。」
アンは前世での怪しいオーラが見える占いなどを思い出した。それすら見えないアンには訳が分からないが、何やら精霊には人に見えない何かを感じ取っているという事だけは理解した。
「光魔法ならば、第一王子を救えるの?」
「可能性ハ有ル。」
「じゃあ、ルカに来てもらいましょう!」
「...とりあってくれないのだ。」
ヘンリーはムスッとした。それを見て、カゲが口を挟む。
「あのなぁ。あんな年頃の女の子を怖い顔して追い回してたらそりゃー、そうなるだろって。」
「ヘンリーおじさん...?」
アンはヘンリーに疑いの目を向ける。
「よーじょ趣味〜?」
「ルカまだ幼いのに〜」
「ヘンリー顔怖いのに〜」
精霊達が余計なことを言った。
それにヘンリーが益々ムスッとする。
「違う、私はクロエ一筋だ!追い回したのではない、情報収集だ。」
アンはヘンリーの事だから、対策を講じるために何が何でも闇魔法について聞き出そうと画策したのだろうと理解した。
「ハァ。では、まずは2人とお話ししなければなりませんね。その席をセッティングできるよう、2人に話してみます。」
アンはため息をついた。
「...なるほど。どのような戦略でいくのだ。」
ヘンリーが腕を組み、ギラっと目を光らせる。
「おじさん...。話を聞いてもらえない原因は、そういうところですよ。あんな純粋な子供相手に戦略も何もありません。
正直にありのまま話すんです!」
「...!?」
アンの潔すぎる提案に、ヘンリーは納得がいかんとばかりに眉間に皺を寄せるのだった。
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