131.あと、ほんの少しの勇気
祝★総評価1,000pt over!!
いつも読んでいただきありがとうございます!
千里の道も一歩から。初めて書いた小説が
ようやくここまで来たことを嬉しく思います。
グレイソンはとにかく何か誤魔化すためにも話さねばと思考を巡らせる。アンに背中を向けた状態で、ぐるぐると思考を巡らせる。
「...。」
何も出てこない。
それはそのはず。何も用などないのだから。
「あの...それで、ご用って...?」
アンはおどおどともう一度聞き直した。
ーーーーーすると、いつの間にアンの後ろにまわっていたのか、白虎が頭でドスンとアンの背を押す。
「わ、わわわわわ!!!」
アンはそのせいで前に勢いよくつんのめった。
「どうし...!?」
グレイソンはアンの慌てた声に急ぎ振り向いた。
ーーーーーポスン。
グレイソンの胸にアンが飛び込む形で、すっぽりとおさまった。
グレイソンは、不意打ちに弱い。そして、実際のところ、過去の経験から普通の男性に比べて恋愛には奥手である。
王族・騎士団長としてのいつもの余裕な雰囲気が崩れ去り、心臓の音がアンに聞こえるほどに高鳴る。
アンもアンで、何故白虎が急に頭突きしてきたのか理解できないが、ふわりと香るグレイソンの匂いを間近で嗅いだ事でクラリとしてしまう。
「「〜〜〜っ!!」」
2人とも恥ずかしさに顔は林檎のように真っ赤に染まるが、離れがたい、それも強烈な逆らいようのない気持ちを抱き、そのまま離れる事もなく固まる。
グレイソンはアンを抱きしめる事もなく、手をどこに持っていけばよいのか分からないままに宙を漂わせている。今、勤務時間中かつ私室に2人きりの状況で抱きしめてしまっていいのか。
そして、離れるわけでもないアンの想いは、自分に少なからず好意を寄せてくれているということなのか。
分からない。
だが、今こそ伝えるべきだとも思う。
グレイソンはさっさとしろと睨みを効かす白虎に促されるように、意を決してアンの腰に手を回して抱き寄せた。
それから、触れたくて仕方のなかったアンの唇を、優しく優しく親指の腹でそっとなぞる。
「...っ!」
アンはギュッと抱き寄せられ、グレイソンの首筋の匂いをより強く吸い込み、自分の気持ちを漸く理解した。
グレイソンを想う、唯一無二の気持ちをーーーーー。
撫ぜられた唇がフルフルと緊張で震えそうになる。
グレイソンはその美しい瞳でアンの目を真っ直ぐに見据えた。
そして、
「アン、君をーーーー。」
"愛している"
たったそれだけの言葉だが、ふとアンの瞳に写る自身の金色の髪が目に入る。
王族の証である金色の髪。
今、アンに心のうちを伝えたとして、この先どうなる?
拒まれ、今後二度とこんな安らかな時間が訪れないとしたら?
王族との婚姻によって、アンの自由が奪われる可能性は?
様々な事が頭を駆け巡り、唇を撫ぜた指先が一気に冷たくなってくる。
「...団長さん。」
おもむろに、アンがグレイソンの手を両手でそっと包み込んだ。
「どうして、いつもそんなにも苦しそうな顔をするのですか?」
グレイソンの手に、アンは頬をそっと寄せる。冷たいその指先を温めながらも、アンは悲しそうな顔をしていた。
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