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魔法の紅茶専門店  作者: ミイ
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013.買い出しとウソの匂い


「最近、治安が悪すぎて騎士団の見回りが多くなってさ、子どもなら捕まっても大目に見てもらえるってんで。親や孤児を集めた大人達が子ども使って、盗みをさせてるんだよ。」

トニーはポケットに手を突っ込んだまま歩き、道すがら治安について教えてくれる。


「そうなんですね。」

アンは俯き暗い声で返事をする。自分が村では祖父母に守られて安穏と過ごしてきたと実感する。アンの父親も子どもを放っておくことはあっても、非合法な事をさせるようなことはなかった。それだけでも恵まれているのだろう、と心を痛める。


「ま!元気だしなよ!買い物付き合うからさ!」

トニーはニカッと笑う。その妙に明るい雰囲気にアンは気が楽になる。


「...ありがとうございます。じゃあ、まずは生活用品を買いたいです。」


「おう、任せとけ!」

トニーはサクサクと前を歩いていく。アンはその後に続き、さらに後ろをブウがついていた。


ブウは珍しく喋らないのだが、3匹揃っていないとそんなものなのか、とアンは理解する。



...



「よっしゃ!一旦休憩にすっかー!」

トニーはベンチに荷物を置いて、ドサッと座る。


「ふう〜!私も疲れました!荷物まで持ってもらっちゃって、本当にありがとうございます。こんなに付き合って貰っちゃって...何かお礼をさせてください。」

アンは申し訳なさそうに言う。


「いやいや、いいんだよお礼なんて!と言いたいところだがこの晴天だ、喉がカラカラで。そこの喫茶店で飲み物ってのはどう?」

トニーは喉を抑えて干からびるといった仕草をしてみせた。


「そんなことでよければ!」

アンは笑って答えた。


「じゃあ決まりだな!」

と言ってトニーは喫茶店に向かう。


すると、今までほとんど黙っていたブウがアンに話しかける。


「アン〜あいつ、今何かのウソが混ざってた〜」


「えっ分かるの...?」


「分かるの〜。風にウソの匂いが混ざってた〜」


「あー、私にお礼をさせまいと、喫茶店でのジュースってことにしてくれたからかなあ?」

トニーは何軒もずっと付き合ってくれた。店や買うべきものも丁寧に教えてくれたのだ。アンはあくまでもいい方向に捉える。


「う〜ん、まだハッキリとしないけど、アンには気をつけてほしいの〜」

ブウは警戒気味なまま、喫茶店へとついて行く。



...



2人は店でアイスコーヒーを飲み始めた。


「ところでお嬢さんさあ、働き口はもう決めたの?」

トニーはコーヒーを飲みながら話しはじめる。


「いや、まだです。本当にさっきついたばかりで。王都でどんな仕事ができるか、少しは考えてきたんですけど。」

アンは正直に答える。


「ふ〜ん。でもさ〜こんなご時世だから、結構どこも雇ってくれなかったり、雇っても雀の涙みたいな給料だぜ。」


「はい、きっと初めて親元を離れたばかりで厳しいとは思っているんですが、体力には自信があるので頑張りたくて!」

アンは力こぶを作ってみせる。


「女の子で体力に自信あるので!ってなかなか聞かないな。みせられても、俺からすると細腕だしな。アンは面白いな〜!」

トニーはやたら明るく振る舞ってくる。


「どうだい、せっかくの縁だから俺のところで働かないか!?俺、個人事業やっててさ、月に王都の平均月収の1.5倍は稼げるよ!」


ブウは「唐突ね〜」と思いながらも、アンの返事を待ってみる。


「う〜ん、たしかにあてもないですけど、どんなお仕事なんですか?」

アンは今日1日付き合わせてしまった恩があるので、ハッキリとは断りにくい。


「人材紹介だよ。今日はもうおそい。明日17時。案内してやるから、ここにおいで。」

トニーは有無を言わさずといった勢いで胸元に入れていたメモ紙とペンで、地図を書き始めた。


「わかりました、それじゃあひとまず話を聞いてみるだけでもいいですか?」


「もちろんだよ!」

トニーはまたとびきり明るい笑顔で握手をした。


そして、トニーはその日わざわざアンの自宅まで荷物だけ運び入れると、サッと帰っていった。


(すごく明るくていい人だったな...沢山助けて貰っちゃった。)

アンはそんな事を思いながら、部屋の明かりをつけた。



アンはこの時、思いもしない事に巻き込まれている自覚などなかった。











そして、



忘れていた。





そこにはすっかり落ち着いた様子の白タヌキがいた。



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