129.そして声は重なる
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その頃。騎士団に遠征組が帰って来ていた。遠征組は、備品の片付けに演習場を訪れていたのだが、ある人物を見て備品をガシャンという音と共に床に落とした。
カラカラン...という音が鳴り止むと同時に、騎士達の野太い声が響き渡る。
「「「「「えぇええええええええ!!!?」」」」」
「おまっ!!!」
「何があった...!失恋か!?むしろ恋か!?」
「ちょっ、俺、お前でもいけるかも...。」
「やめろ、俺も遠征帰りだしまさにそれを考えちまった...。」
「もう、いっそ抱かれても...イイ...!」
遠征組の者達は、久しぶりに見たブレイクがあまりにも綺麗になっていた事に衝撃を受けていた。
綺麗というほどに、男性的というよりはブレイクは中性的な顔立ちなのだ。それを無精髭とボサボサの頭で隠していた。
「...んだよ。ただ髪切った程度で。」
ブレイクは少し気恥ずかしそうにしている。
「いや、だけどそれ...そうか。来る途中に侍女達が噂してたのはお前か...。」
ブレイクが髪と髭を整えてからというもの、王宮内では侍女達がグレイソン派、セト派、ブレイク派でおおよそ3分割されていた。
更にはブレイクはまだ団長格ではないために、話しかける隙を狙いお近づきになろうとするものが後を絶たない。
そこに、アンが訓練のためにやってきた。
「お、おはよう、ブレイク。なんだか貴方の噂でもちきりのようね。」
アンは先日の件を無かったかのように必死に平静を装う。ここに来る前からどんな風に話しかけるかシュミレーションをして来たのだが、丁度良くブレイクの噂話や視線が多くて助かった。
「まあ。ーーーーー誰に噂されようとも、オレが守りたいのはお前だ。」
アンの頭をポンポンっとしながらサラリと言ってのけるブレイクに、アンは顔が真っ赤になる。
ブレイクのその蕩けるような笑顔に、何故か周りの騎士達すら胸を射抜かれたように固まっていた。
「あいつ...あんな顔して笑うのかよ...!」
「やべぇ、綺麗すぎて心臓に悪りぃ。」
「クソっ男しかいないこの世界であれは、新しい世界に踏み込みそうになるぜ...。」
「踏み込んでも...イイ!!!」
「なー、あの美しい魔法使い殿と並んでも、グレイソン団長やセト団長と並んだ時のようにしっくりくるな...。」
「魔法使い殿は誰が本命なのか、まだ俺達にも可能性があるのか...?」
騎士達がざわついているが、ブレイクはお構いなしに訓練を始めた。
...
グレイソンは用事が済むと、騎士団に戻ってきた。自室に行く前に、遠征後の騎士達を労うため演習場に向かう。だが、その胸中は筆頭王位継承者である第一王子が倒れた事への緊張感でいっぱいだった。国王陛下も胸中は穏やかではない。
しかし、この事をこれ以上誰にも知られてはならない。国全体に不安を撒き散らすだけだ。
ヘンリーが既に動いているが、自分も助ける手立てをすぐにでも探さなければなるまい。
そうして、眉間に深い皺を刻みながら歩いていると、訓練中のアンが目に入った。だが、その訓練の相手をしている騎士には見覚えがない。
ミルクティ色の髪、美しい顔立ち。どこかで見ているはずだが、いまいちピンと来なかった。
「遠目では分からん。誰だ?」
グレイソンは近付いた。すると、アンの風魔法がその者を掠める。
類稀なるその回避・防御のうまさには舌を巻いた。そして、理解する。
「...ブレイクか!?」
その声に、アンもブレイクもピタリと動きを止めてグレイソンに目をやった。
「グレイソン団長、お疲れ様です。」
ブレイクは模擬剣を下げ、礼をする。
「...あっ、お疲れ様です。」
アンは今朝の事を思い出して、少し顔を火照らせる。なんとなく、慌てて乱れた前髪を直した。
「ブレイク、とても似合っているな。そうか、君はそんな顔立ちをしていたのか。」
グレイソンはまるで、弟の成長を喜ぶ兄のようにニコニコとしていた。グレイソン自身も笑顔ひとつで貴婦人の腰を砕かせるのだから、ブレイクの変貌ぶりを見ても、さっぱりしたなぁと思うくらいのものだった。
「アンの訓練に関しても、役目を果たしてくれて感謝する。先程の様子だと、もうそろそろ訓練を終えても良い頃だな。油断さえしていなければ、自分でも身を守れるだろう。何かあればまあーーーーー。」
「私が守るが。」
「オレが守りますが。」
2人の声がしっかりと重なった。
アンは互いにニコニコとしつつも、何か黒いものが渦巻く2人の様子にキョトンとした。
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