128.横たわる男
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グレイソンと白虎が入ったのは、騎士団の施設に併設してある医務室だった。王国屈指の医務班が常駐し、王族が使う事もある立派な施設である。
「失礼する。」
グレイソンの後ろからノソリ、と白虎が姿を現すと医務班の新米騎士達は縮み上がった。
ただでさえ、新米騎士達がなかなか直接話すことのできないグレイソンがいて、かつ癒しにおける最上位精霊も目の前にいるのだ。白虎の姿をしているために威圧感にジリジリと後ろに下がりそうになる。彼らは緊張で心臓が口から飛び出しそうになっていた。
「御足労頂き感謝申し上げます。グレイソン団長、精霊様。」
医務班の長だけはニコニコとしたまま前に出て、白虎に向かって跪く。それに倣って、医務班の全員が跪いて頭を下げた。
白虎はその様子に態度には出さずとも、グッと眉間に皺を寄せてゲンナリした。
この仰々しさも、気心の知れない人間と人間の言葉で話さなければならない煩わしさも、白虎が今日グレイソンを間に挟みたかった理由だった。
が、そもそもここに白虎が来ることになった原因はフウ達にある。
国王からフウ達に、突然倒れた人間を診てほしいという切実な依頼があった。国王だからと言ってその権力を振り翳して精霊に願うなど、通常ならば有り得ない。
余程の事情があるのだろうと察しつつも、白タヌキは黙って横で話を聞き流していた。だが、気に入った人間以外のことなど、フウ達は面倒だから嫌だと言う。今はアンの願い事以外はさらさら聞く気などない様子だった。
そしてその流れ弾が当たり、白タヌキはこの日やむを得ず対応するはめになった。
「それでーーーーー、様子はどうだ?」
グレイソンは、騎士団の医務室には煌びやかすぎる衣を纏い、力無く横たわった男に目をやる。20代手前程の、金の髪をした青年だった。
「それが、やはり目を覚ますことはありません。死んだように眠るといいましょうか...。」
「わかった。白虎、診てもらえるか?」
グレイソンは険しい表情で男に視線をやったまま、白虎へと尋ねる。
白虎は頷くとノソリ、と男の横に移動する。ジッとその男を診るが、しばらくすると首を横に振った。
「病ノ類デハナイ。我ガ範疇ニ無イ。
闇ニ、落チテイル。」
「...そうか。」
グレイソンは酷く険しい顔をした。そして、その場にいる者に箝口令を敷いた。
そこに、ヘンリーが入って来た。
「どうですか。...第一王子は。」
「やはり、病ではないと。白虎は闇に落ちているようだと言っておりますね。」
グレイソンは苦い顔をして説明する。
「精霊様、御足労頂きありがとうございました。やはり、これでは闇魔法か光魔法に長けた者、または精霊様を探す他はありませんね。」
ヘンリーは小さくため息を吐く。いまだにルカやオリーには心開いてもらえず、闇魔法の事は何一つ聞き出せていない。予想通り...になって欲しくなかったが、嫌な予感が一つ当たってしまった。
「精霊様、グレイソン団長。ありがとう。病ではないという原因の切り分けができ、かつ闇魔法だと分かった事は非常に大きな意味を持つ。」
ヘンリーは短く礼を言うと、あっという間に医務室からは消えていた。
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