124.金の髪は魅惑に惑う
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姿が見えなくなった2人にポカンとしていると、ちょうど目の前からグレイソンがやって来た。肩にはその美しい風貌とは不釣り合いに白タヌキが乗っかっている。
なんだか苛立ち紛れの表情で、いつもは笑顔のグレイソンのイメージとは異なりすれ違う女性達が、違う色香に惑わされている。もしくはもふもふをのせているグレイソンのギャップにやられている。
アンはアンで珍しいグレイソンの様子に何かあったのかと心配になっていた。ここ最近は魔物被害も少なく、治安も前より少し良くなっている。よほどの事件があったのだろうかと、声をかけずにおこうと思った。
が、グレイソンはアンの目の前までツカツカとやって来るとニコリと良い笑顔...良すぎる笑顔になってアンに近付く。
「ひっ!」
とアンが後ずさると、それに合わせて更に近づいて来る。
「やぁ。アン。」
「ご、ごきげんよう...!グレイソン団長...!」
アンは更に後ずさるが、白亜の本屋の壁に追いやられて背中が壁にトンッとぶつかり、反動でさらに頭がコツンとぶつかる。
「セトが新作菓子をいただいたようで。世話になった。他の騎士達も最近は君の新作菓子の話でもちきりだ。なのに...なのに、私だけがそれをまだ口にしていない!買いに来る余裕も与えてはくれなかった!やっと来れた...。」
と、早口に不満を言ってのけたグレイソンはアンの肩に頭をコツンと乗せた。ふわりとグレイソンの金色の髪がアンの頬に触れ、アンはその部分に熱を持つ感覚を覚えた。
白タヌキは斜めになって乗りにくいのか、恨めしげに降りて白亜の本屋に入って行った。最近の白タヌキはアンと同じくらいグレイソンといる時間が増えてきた。
「あ、まさかキャラメルポップコーンを食べに来て下さったんですか...?」
おずおずとアンが身動き取れないままに聞くと、グレイソンがようやく顔を上げてくれた。顔を上げれば今度は程よく薄っすらと香るグレイソンの香水に意識を持っていかれそうになった。
「そうだ!私もアンの新作は毎回楽しみにしている。セトだけではなく、他の騎士達にすら先を越されてしまった。」
グレイソンが美しい顔でムスッとしながらも、ふとアンと目を合わせた。
「......。」
すると、グレイソンがポケっとした様子で立ちすくんだ。そっとアンの肩に手を置き、アンを抱き締めようと引き寄せ...かけた。
「あ、あの団長さん...?まわりの方に見られてます!」
アンが慌ててグレイソンを両手で少し押し返し、上目遣いで覗き込む。
「で、出直してくる!!!」
すると、ハッと耐えられなくなったようにグレイソンが走り去りアンだけが疑問が残るままに取り残されてしまった。
「びっくりした...!な、なんだったんだろう...?」
アンは真っ赤に火照った頬を両手で覆った。その記憶にはしっかりとグレイソンの香水の香りが刻まれた。
「くそっ!まずい、店がそろそろ閉まる時間だと言うのに何をやっているんだ!くそっ!可愛すぎる!どうしたんだ俺は!」
グレイソンは白亜の本屋の裏の路地でバクバクとなる心臓をおさえてしゃがみ込んでいた。
アンにかけられた光魔法は、うっすらと"魅惑"の効果もあった。アンが銀食器ではなく鏡で確認すれば気付けただろう。瞳だけでなく、髪も艶やかに煌めき光の加護を受けてアンの美しさが更に増していたのだ。
普通であれば見目が若干美しくなるくらいのものだが、元々美しいアンとそれに恋心を抱くグレイソンであれば絶大な効果を発揮した。
「ふうん。グレイソン、お前まだ手出してないのかー。」
気付くと真後ろにウィルがいた。感心したような顔をしている。
「んなっ!?手など...同意もなく出すはずがないでしょう!というか、いつから見てたんですか。」
グレイソンがぶすくれた表情で軽く睨む。
「お前ほど目立つ奴が目立つ登場の仕方をして、目立つ逢い引きの仕方をしてたらそりゃあなあ。いや、逢い引きにしては人目を避けてないから、ただのナンパか。」
それだけ言ってウィルはニヤつきながら店内に戻って行った。
グレイソンは納得がいかずに唇を尖らせるのだった。
それから何分たった時だろう。ようやく心臓を落ち着かせたグレイソンが店に入ろうとすると、閉店準備をしていた。3匹の白タヌキの帽子を被った子供たちが忙しく片付けをしている。
「済まない、キャラメルポップコーンだけ買えるか?」
グレイソンは近くにいたアイラに声をかけた。アイラは申し訳なさそうに眉を下げると、ちょうどさっき出た分で売り切れだと言った。ガッカリしたグレイソンが店から出ようとすると、アンが声をかけた。
「あ、あの団長さん...!良かったら王宮に戻ってから作りましょうか?」
その言葉にグレイソンの表情が変わる。
「い、いいのか...!?」
アンは紅茶と菓子に関しては素直なところが、とても可愛らしく思えた。いつだってアンが作るものを美味しそうに食べてくれるグレイソンを見るのがアンにとっても癒しの時間だった。
「勿論です。良かったら次の新作菓子の試作にもお付き合い頂ければと。」
「ぜひ!では今日はもう上がりだ。ここで待たせてもらってもいいか?護衛も兼ねて王宮まで一緒に戻れば良い。」
そしてグレイソンはテラス席にかけて待つことにした。
...
王宮のアンのいる離れの部屋に戻ると、アンは早速エプロンをして赤い花フェアの紅茶を淹れた。
「ありがとう。疲れている時にすまない。ここにこうして来るのは久しぶりな気がするよ。」
「実際かなり久しぶりですね。最近はお忙しくていらしてなかったですもんね!良かったら今日は夕飯も食べて行きませんか?......団長さん?」
アンが髪を束ねる後ろ姿から、正確には頸から目を離せずにボーっとしてしまっていた。
「あ!いや、ありがとう。ぜひ、お願いしても良いだろうか?実は、昼も逃してしまったんだ。」
すると、アンが驚いたように長い髪をヒュッと靡かせて振り向いた。
「団長さん!何故早くそれを言わないのですか!すぐにできるものにしましょう。つまみを食べててください。」
そう言ってアンは作り置きのつまみとワインを出した。
「...すまない。」
グレイソンは小さくなって謝りつつ、ありがたく頂いた。空きっ腹に少し度の強いワインがキュウッと入ってきて、たまらなく美味い。それに合わせた手作りハムは抜群に美味しかった。保存料理の為アンの手料理にしては塩っ気が強く、旨味が凝縮されている。それを薄く切ってちまちまと食べるのが至福である。
「今日はワインに合わせて採れたてキノコのアーリオオーリオと、パスタにしましょう!」
アンはそう言って小気味よくニンニクを刻み、オリーブオイルで炒めていく。ニンニクの香ばしいにおいが部屋を満たし、それだけでもワインがどんどん進んでいった。
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