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魔法の紅茶専門店  作者: ミイ
120/139

120.ルカとオリー




...





闇魔法の存在を確信してから、ヘンリーは王都から遠く離れたある村に来ていた。





「え?またヘンリーくん来たの?まったく聞き分けのない男の人は嫌われちゃうぞって言ったのに。どうせ見つかっちゃうだろうけど、一応隠れよ〜っと!ピピありがとう!」


少女はピピと呼んだオレンジ色の羽をした掌サイズの小鳥に木の実を渡す。訪問者毎に鳴き方を変えられる鳥だ。魔法でも何でもなく、その鳥本来の習性を生かした少女の防衛手段だった。


少女はヘンリーが来る前に結界を張り、姿を絡ませた。



それから暫くして。


「...ルカ様、いらっしゃいますか?」


ヘンリーは森の奥の大木の前に立ち、その上を見上げる。その大木は成人した男性5人がかりでも手を回しきれない程に太く、立派なものだった。こちらを見下ろすように立つその木は、大蛇のような太い枝を悠然と広げ、深緑の木々の中ひとつだけ冬枯れのように緑を茂らせてはいない。


ヘンリーがその幹に耳を当てると、根が水を吸い上げる瑞々しい音の代わりに、カタカタと生活音が響いてくる。


「...ルカ様、いらっしゃいますね?失礼します。」


ヘンリーは枝の一つを手折るように傾けると、大木の表面がギギッと手前に動いた。


「あ!なーんで返事していないのに、入ってきちゃうのかな〜ヘンリーくんったら!女の子の部屋は勝手に入っちゃいけないんだぞ!」


大木の中は空洞化しており、このルカと呼ばれた女の子が一人、その中で日がな一日巣食うように過ごしていた。ルカは振り向くと、ベーッと舌を出した。


「では、ルカ様が返事をなさったらよろしいのです。」


「もうっヘンリー君ったら!お口が回るからって言いくるめようとしないでよね!それに毎日来ないで!もう結論は出したじゃない。」


ルカはロッキングチェアに座り、足を投げ出してバタつかせている。幼い彼女はノラやノエルと同世代だろう。傷のない白桃のような肌からは、彼女が殆ど外に出ていないことが想像できた。


「ですが、実際に被害にあったことのある人物がいる以上、闇魔法について知らぬ存ぜぬで通すわけにはいかぬのです。」


「〜〜〜っヘンリーくんはさあ、闇がこわいって言ってたよね?でもさ、闇があるから光があるの。表裏一体なの!もともとこの世界には闇しかなかったところに、光ができたのだから闇を消す必要なんてないの!むしろ邪魔なのは私たちの方かもしれないよ。」


ルカは目いっぱい頬を膨らませてみせる。その言い分には、ヘンリーも確かに思うところはある。


「もうルカは興味ないのー!その話はおしまいよ!」

そう言ってルカは長い長い薄桃色の髪で三つ編みをして手遊びを始めた。


「ですが...」

ヘンリーは食い下がる。


すると、

「しつこい男はクロエ嬢にだって振られちゃうんだから!」

と言ってルカは目の前から消えた。


あのヘンリーの心にも、的確に棘が刺さった。


「これは、手厳しいですね...。」


ヘンリーも苦笑いをすると、再び木の外に出た。そして再び木の上を見上げると、カゲに合図を送り温度差で光の屈折を狂わせる。


「ルカ様、オリーはどこにいるのですか?」


光魔法を使って木の上に隠れていたルカの秘密基地とともに、ルカの姿が現れた。


「ひゃっ!?もう、ヘンリーくん!女の子が逃げたら追いかけるのは正しいけど、火魔法使うのはズルくない??結界張り直さないとルカの秘密基地見えちゃうじゃない!」


「ルカ様も光魔法を使ったではありませんか。」


「むぅ〜!ルカはいいの!ベーッだ!」


そう言うとルカは再び光魔法の結界で木の上にある秘密基地と共に姿を消した。


ヘンリーはその気配を辿ろうとするが、一瞬で追える範囲から消え失せてしまった。


「...気配ごと、か。光の速さとはどのくらいのものなのか、測ってみたいものだな。今頃村にでも着いているだろう。カゲ、行こう。」


「はいよ。すばしっこさで言えば、ヘンリーには勝ち目ないけど追うのか?」


カゲは連日の同じやり取りに飽き飽きしていた。


「ああ、粘り強さと策ではこちらの方が上だ。唯一の手がかりなのだ。あの子と追いかけっこをするしかあるまい。」


「ははっ!その歳で追いかけっこか。」


カゲは火をポッと散らして笑った。



そして同じ頃、ルカは予想通りに村にある自宅に到着していた。


「オリー兄様ただいま!」

ルカは勢いよくドアを開けて家に入ると、兄に抱きついた。


「おっ!ルカ、おかえり。今日は早かったね。...またヘンリーかい?」


オリーは優しくルカを受け止めると、その柔らかな薄桃色の髪に付いた花びらをとってやる。


「兄様!またヘンリーが来て兄様に会わせろって言うの!たぶんあと少ししたら来ちゃうから、また研究室に行っててね?」


「あぁ、ありがとう。では行ってくるよ。」


オリーはそう言って荷物を纏めると、ルカの頭を撫でて家から出て行った。


「...夜ご飯作っておくからね。」


ルカは閉まりかかった扉の向こうのオリーの背に向かい、ボソッと囁いた。



オリーとルカは10歳違いの兄妹だ。生まれた時から大変仲の良い兄妹で、離れることは少ない。数年前に両親が亡くなってからは、更に互いに依存するようになっていた。


そんな薄桃色の髪をした兄妹は、村の者からは大変好かれていた。光魔法の使えるルカの恩恵は大きかった。濃い霧と闇に包まれるこの村を照らす光を齎したのはルカだった。


更に、兄のオリーは自警団の団長として野盗や魔物から村を守り続けていた。





オリーが家を出てから10分後。


「ルカ様、いらっしゃいますか?ヘンリーです。」


と、ヘンリーの声がした。


ルカはうんざりした顔で扉を開けることもなく、そのまま放っておく。そして、数時間が過ぎ、ようやくヘンリーの気配が消えたことに安堵したのだった。


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