110.頬張る
「というわけで、ノラとノエルは試食会でお客様に菓子と紅茶をお渡しする係。レオ達3人はいつも通りの給仕と新作紅茶の補充。ノワールは新作の菓子と紅茶のイメージを描いた看板づくりをお願いするわ!
じゃあノラ、他の店の店員さん達にも試食してもらうから呼んできてもらえる?」
アンは皆が理解しているかを確認しつつ、作業を分担した。
ノワールはすかさず質問する。
「アンさん、この新しい菓子と紅茶ってどんな味として説明文を書けばいいかな?」
「フフッ良い質問ですね!それはね、皆にも食べてもらおうと思ってるから、その後で話し合いましょ!」
アンはニヤリとしながら、籠バッグから菓子と茶葉を取り出し、レオ達の前に差し出した。ノワールとノエルは嬉しそうに、わぁ!と小さく感嘆の声を上げる。ノラは他の店員達を連れて戻ってきた。
「あ、あの、まさか僕らも試食させて頂けるんですか!?」
レオが目の前に出された菓子を見つめた後、驚いてアンを見つめる。
「え、えぇ...そんなに驚かなくても。今までも試食は...ってもしかしてお店の物を食べていなかったの!?」
そのアンの質問に、3兄弟は当たり前のように頷く。
「雇い主であるアンさんから直接許可を頂いていません。売れ残ったものは、申し付け通りに下級層の職が見つかっていない子供達に配っていましたが。」
アンも、ちょうどやって来た他の店員達も3人の律儀さに呆気に取られてしまった。クッキーやケーキが売れないものとして余れば、子どもならば自分たちも食べているはずだと思っていた。
これには、ジャスパーすらウリウリとレオの頭を撫で回した。クロエはオリバーとアイラをムギュッと抱きしめた。
「やっぱりこの天使達を連れてきたノワールは素晴らしいわ...!私の癒し達...!!!」
最近のクロエの立ち位置は、もはや3人のお母さん代わりらしい。そうなると、ヘンリーはお父さんになるかと思いきや、滅多に会わない上に怖いらしく3人は懐かなかったそうだ。そして、意外にもクロエの次に懐いているのはジャスパーらしい。というのも魔道具作りができるのが格好良いから、という理由だった。たしかにジャスパーは黙って作業している分にかなり魅力的だ。黙っていれば...
「アン、なんかごめん...皆がスラスラとお客さんに味の説明をするものだから、てっきり食べられてると思ってたんだ。」
テディがちょっと申し訳なさそうに謝る。
「食べてないのに...説明を?」
アンが不思議にアイラを見つめると、聞きたいことを察して答えてくれた。
「私達はお客様に説明するために、白亜の本屋の皆さまや下級層の子達、お客様からの感想を聞き取り覚えるようにしていました。なので、食べた事がなくても美味しさは伝える事ができてます。」
「...!!そんな工夫までしてくれてたなんて!じゃあ尚更全て一度試食してみてほしいわ。皆さんで新作のキャラメルポップコーンをどうぞ。」
アンはそう言って菓子を袋から出すと風魔法をかけた。ふわりとキャラメルを焦がした甘い甘い、しかしポップコーンの塩味がきいた匂いが皆の鼻先をかすめる。
「うわ!何だよこの美味そうな匂い!たまんねえな〜」
と、ジョシュアは甘く深いコクのある香りを堪能する。
「ダイエット中でもコレは負けるわ...毎日食べたら白タヌちゃんになっちゃうわ!お願いアン、花屋側には香りを遮断して!」
クロエがアンに懇願するので、すぐに魔法で花屋との間に風の層を作った。
「味は...軽い弾けるような食感とキャラメルの濃さが最高だな。」
ウィルはポリポリと食べ進めてしまう。
アンはその間に新作の紅茶を淹れに行った。ノワール達も美味しそうに味わっている。
「ほ、本当に僕らも食べていいんですか...?」
レオ達はまだ手を出せないでいるので、ジャスパーが順番に口に放り込んでやった。
「どうだ?」
ジャスパーが3人に微笑み、尋ねる。
「「「幸せの味!!!」」」
3人が声を揃えて感想を述べた。
そして、それを聞いたノワールはクスリと笑って看板のイメージに取り入れる事にした。
3匹の白虎の帽子を被る可愛い子ども達が口いっぱいに頬張って幸せそうにしている絵。香りとその幸せな絵につられて、連日キャラメルポップコーンを買い求める人々で通りが溢れる事になる。
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