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魔法の紅茶専門店  作者: ミイ
109/139

109.3匹の白タヌキ


...



白亜の本屋開店1時間前。皆、それぞれに開店準備を始めていた。そこに、ノワール、ノエル、ノラの3兄弟も来ていた。



「お姉ちゃん、そろそろかな?」

ノラはジャスパーの作業を見学しながらも、ソワソワとしていた。ジャスパー自身も珍しく何回か作業ミスしているところを見ると、落ち着かないようだ。


「今日来てくれるんだよな!?」

ノエルは白亜の本屋の入り口を見張るようにジッと見つめ続けた。


「そうだけど、あまりはしゃぎすぎるなよ2人とも。もし来られなくても怒らないように。」

ノワールは困ったように2人を落ち着かせていた。だが、花屋にいるクロエすらソワソワと落ち着かないでいる。なんどもブーケを作っては納得がいかずにやり直している。




一方その頃。角を曲がればもう白亜の本屋が見えるという場所で、アンは緊張して足が踏み出せずにいた。白タヌキはいつまでたってもそこから動けずにいるアンに呆れてスカートの裾を噛んで引っ張る。


「ふにゃー...(早く行こうってば...)」


「アン〜白タヌキも呆れてる〜」

「僕たち先行っちゃうよ〜?」

「ね〜はやく〜」

精霊達は飽きて欠伸をしはじめた。


「ちょっと待って皆!まだ心の準備ができないの!お願い!」


アンは必死になって頼み込む。


「...まぁ、来るのが遅いからこんな事だと思っていたよ。ほら、行くよ。」


アンは優しい声に焦って振り向く。すると、テディがいつもの店用の白いエプロンを着て立っていた。


「テディ...!あ、あの、私...!」


アンは心の準備ができるより先にテディに見つかってしまい慌てる。


その隙に、テディはしっかりとアンの手首を掴み、白タヌキもスカートを引っ張って進ませた。



「やっぱりお姉ちゃん今日は来ないのかな...。」

ノラとノエルは今日はもう会えないのではないかとますます心配になっていた。



そしてそこに、テディに手を引かれた長い髪の女の子が、春のような穏やかな風を連れて入ってきた。


皆がその風に振り返る。この白亜の本屋は風魔法で制御されている。そこに風が吹くなどあり得ない。あり得るとしたら、それは彼女がいる時だけだった。


「おかえりなさい...!」


誰ともなく、皆ポツリポツリとアンの名を呼び、おかえりと言った。


『おかえりなさい』


その言葉の温かさに、アンは目頭が熱くなった。あの一件依頼来られなかった白亜の本屋。変わらないその外観の美しさと、パンや花、紅茶が香る店内。変わらない皆の温かさ。


「た、ただいま戻りました!!!」


アンはバレないようにサッと指で目頭に溜まった涙を拭うと、笑顔で皆とハグをした。ノエルが泣きじゃくるものだから、つられそうになるが、これから仕事としてやる事も沢山ある。泣いてる場合ではないと自分を鼓舞した。


そして、目を輝かせてアンを見上げる紅茶屋の小さな店員たちにもしゃがんでハグをする。


「はじめまして、今までお店を守ってくれてありがとう。可愛い店員さんたち。」


「は、はじめまして!僕、レオって言います。」


一番背の小さなレオが初めに自己紹介をしてくれた。少し服がブカブカだけど、すぐに背が伸びるのを見越してテディが用意してくれたようだ。


「はじめまして、働かせてくれてありがとうございます!僕、オリバーです。」


しっかり者のオリバーは、ピシッと礼儀正しく挨拶をする。こちらも服は少しぶかぶかである。


「はじめまして。2人の姉のアイラです。」


おっとりしつつも面倒見の良い長女、アイラは愛嬌が良く助けてあげたくなるタイプの女の子だった。だが会計処理は誰よりも早く、最近ではそのあたりのことは白亜の本屋全体が彼女に頼っていた。


3人は兄弟だ。レオとオリバーは10歳の双子で、アイラはその姉で12歳。アンが店に来るのをやめてから、ノワールが下層級から働ける子達を連れてきてくれた。そして、今アンが住んでいたアパートにはこの子達が住んでもらっている。


3人は昨年両親を亡くし、それ以来家も失い生きるにはギリギリの状態だった。しっかりと両親に躾けられたのだろう、大変礼儀正しい。


そして、ただでさえ可愛い3人の服装は、紅茶屋の人気をさらに押し上げていた。


テディは白タヌキがいない間の代わりにと、3人に白虎の耳付き帽子を被せた。虎...なのだが、白タヌキのイメージが強かった常連さん達によって結局"可愛いタヌキさん達のいる店"と言われるようになってしまった。


「私の代わりに大切な紅茶専門店を守ってくれてありがとう。これからもっと皆がいい暮らしをできるよう、私も頑張るわ。それから、少しずつお店に顔を出すようにしたいと思っているの。」


アンは優しく微笑むと、3人は誇らし気にはにかんだ。アンは3人がどれほど一生懸命に働いてくれていたかは、テディやノワール経由で聞いていた。


テディやジョシュア達皆の店の手伝いをしてくれる事もあり、白亜の本屋全体でとても助かっていた。


「いいなー、俺だって姉ちゃんの店で働きたいってのに。」

ノエルがちぇっと面白くなさそうにする。


「ノエルもノラも算術ができるようになるのが最低条件だ。それでも、兄ちゃんがアンさん達のおかげで働けているから焦る必要はないよ。」

ノワールがそれを嗜める。


「分かってるし!」

ノエルが悔し気に腕を組む。


アンはその光景を微笑ましく見つめる。とは言え、今日は新商品達の試食会をする必要がある。早々に会話を切り上げると、アンは3人に説明を始めた。


「風魔法での試飲・試食会をしようと思うの。皆手伝ってくれる?もちろん今日はノエルとノラも、ね!」


「「「はい!」」」

3人とノエル、ノラは元気いっぱいに返事をした。

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