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魔法の紅茶専門店  作者: ミイ
107/139

107.訓練と乙女心




「アンさん、本日の訓練を担当します。よろしくお願いします。」


セトが今回はアンの可愛さに再起不能になっている場合ではないと、気合を入れて挨拶する。が、念のためアンを直視せず、その頭の上の方に視線を固定した。


「アン、今日から正式に訓練可能だ。担当は主にアーロとセトになる。加減は必要なしに訓練ができるだろう。自分の力の限界が分かったら、今後は加減をしていくという方針で訓練すると良い。」


グレイソンは少し顔を赤らめながら、それだけ告げると足早に事務仕事に戻って行った。


「セトさん、よろしくお願いしますね!私のことはどうぞアンとお呼びください。」


アンがニッコリ微笑んでセトに握手を求める。


「…っ!はい…。」


咄嗟に握手で返すが、セトはアンの服装にまたも再起不能になるかと思った。一方で足早に去ったグレイソンもまた同じ事を考えていたのだが。


今日も緩めの色気あるポニーテールに、Tシャツ。ただし、今回はスパッツのようなものを着用しており、細い体のラインがぴったりと見える。そういえば最近巷では女性向けにも運動用のピッタリした服が流行っていると耳にした。


「これが噂の…!」

と、思わず声に出てしまう。しかし、今回こそ任務を果たすべくセトはバチンと大きな音を立てて自分の頬を叩く。


「あの…大丈夫ですか…?」

音に驚いたアンが目を丸くしてセトを見上げる。


「問題ありません!演習場に行きましょう!」




早速演習場に着いた二人は、素手での訓練を始めていた。


30分ほどした時に、セトは休憩がてら話す。

「アーロ団長からお聞きした通り、筋がいいんすね。少し意外です。」

と、セトはハハッと笑う。


「もう!セト団長も、"意外と"は余計です!運動神経は自信があるんです。村にいた小さな頃は男の子達よりも足が速かったんですから。」


アンはフンッと鼻を鳴らしてみせる。


「ちなみに、今風魔法は?」


「もちろんかけてません!かける時にはきちんとお伝えしてからにしますから。」


「かけてなくても...本当に運動神経が素晴らしいんですね。」


セトはパチパチと小さく拍手をする。お世辞ではなく、アンは本当に筋がいいのだ。本人は村で暮らしていた時から男の子達に混ざってお転婆をしていたのだからなんて事はない。


この見た目のせいで男の子達に意地悪されてきたが、いっその事やり返してみたところ案外勝ててしまった。小さな頃は女の子の方が体格がいいのもあって、アンは変に自信をつけてしまった。


「アン〜僕らも混ぜて〜」

「もっと速くやろ〜」

「騎士の男どもをギャフンと言わせたいわね〜」


アンは振り向いてやいのやいの言う精霊達をどうしようかと悩む。


その時、ちょうどよくセトから風魔法付与について提案された。


「では、風魔法を使った上での訓練をしてみせて頂けますか?速度強化や防御力向上などが可能なんでしょうか?」


たしかに、限界を知るとなるとどこまで出来るのか詳しく精霊達に聞いていなかった。アンは精霊達に尋ねる。


「ぜ〜んぶ」

「はや〜い」

「つよ〜い」


「う〜ん、精霊達は一通り速く強くなると言ってます。」


「それは、随分と...。」

(ザックリだな...。)

最後の一言を飲み込んで、ひとまずセトは限界まで向上させた状態にしてもらう事にした。


「ソレソレ〜」

「つよくて〜はやくて〜」

「防御もできて〜いい感じに〜」


「ありがとう、みんな。後でクッキーと紅茶でお茶しようね。」


アンはザックリとした精霊達の魔法付与に感謝を述べると、セトに向き合った。


「私には魔法付与の変化が見えないので、アンの準備ができたらでいいんで、教えてください。」


「はい、恐らく大丈夫です。今の魔力消費でどの程度の魔法付与となったか私も全く分からないので少しずつ試させて下さい。」


アンはグーパーと手を握ってみる。カラダはかなり軽い。アーロの時のようにやり過ぎないように注意しなければならない。


「風魔法なので想定通りですが、握力・筋力に変化はないですね。」


そう言うとアンはセトの手をギュッと握って見せる。アンの細い指先がセトの手を握ってプルプルと震える程に力を込める。


「非力なままです、悲しいくらい。」


と言ってアンは手を離すと、眉を下げて笑う。


「そうですね...。先ほどとあまり変わりないようです。んじゃ、先ほど少しやってみた投げ技や足払いで試してみますか。限界を知るのが目的ですから、ひとまず止めるまでは続けてやってみましょう。」


「はい、では...セトさんにも防御魔法付与させてください。」


アンは日々鍛錬しているセトに対して申し訳なさそうにお願いした。セト自身は魔法のもたらす力の大きさは理解しているつもりなので、特に嫌な顔する事もなく受け入れた。


「では、合図したら好きなタイミングで技をかけてみて下さい。


......はじめ!」


セトがそう言うと、アンは加減なしでセトに投げ技をかけるモーションに入る。










空が見えた。










アンがどう動いたのか殆ど分からなかった。投げ技だったのは一瞬見えた。


しかし、ギリギリのところで、騎士団長・男性といった肩書きがセトの意地を見せた。


(こっちは最年少団長の肩書き背負ってんだ。団服に泥つけてたまっかよ...!)

セトも思わず本気になっている。訓練もしていない男性ならば、既に意識を失っているレベルの威力だった。


完全に体が浮き、地面に倒される前に片手で跳ね上がって飛び起き、アンから距離をとる。


そのままアンが連続攻撃態勢に入ったため、セトも構える。


アンの動きはまだ直線的でしかない。見切ってしまえば彼女の拳など簡単に跳ね除けられーーーーー





「!!!あっぶねっ......!!」


セトは身を翻して見えないソレを避けた。咄嗟に素の口調になる。演習場の奥、数百メートル以上離れた木々がゴウッと一気に騒めく。


かつて感じた事のない程の風圧がセトを襲った。セトは心臓がバクバクと波打つのを必死に抑えつけた。


「止め!


...今のは身が裂けるっつーか、散り散りになるっつーか...そんな印象の風だったんすけど...。風圧だけでも呼吸が苦しくなるレベルかよ...!」


セトは率直に感想を言ってしまった。その一言に、アンが風魔法を解除して慌てて駆け寄ってきた。


「セトさんごめんなさい!!!だだだ大丈夫でしたか!?」


本気で狼狽えるアンが、先ほどの風圧を放った人物と同じとはあまり思えなかった。セトは呆然とアンを見る。


「痛っ...!?」


その時、痛みを感じたのはセトではなくアンの方だった。


「あ、れ...??」


アンは驚き顔でその場にストンと腰が抜けたように座り込みそうになった。それをセトが咄嗟に腕を掴んで支える。


「どうしました!?」


「あ、えっと...これは恐らく...自分の力量を大きく超えたんだと...。ええと、白タヌちゃんに来てもらわなくてはいけないかもしれません...!」


アンがヘラヘラと笑いつつも、全く立ち上がろうとしないため、セトは状況を理解した。


「速度についていけずに一度で身体が悲鳴を上げたようですね。ちょっと失礼します。よっと。」


そう言うとセトはアンを肩に軽々と担いだ。アンはあまりにナチュラルなセトの所作に、一瞬何を言うべきか忘れかけた。


「きゃあっ!?あの、あ、歩きます!いや、むしろ白タヌちゃんに来てもらいますから!」


アンは必死に下ろすようにジタバタ暴れつつ説得する。それもそのはず、スパッツのような物を着ているのだから、セトの前面から歩いてくる人にはヒップの形が丸分かりである。


(恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!この格好も、セトさんに重いと思われちゃいそうなのも、恥ずかしい!!)


「...精霊様に来ていただくより、連れてった方が確実で早いんで!任せてください。」


セトはアンの気持ちを理解できないままに急ぎ歩き出す。




「せめて!せめておんぶにして下さいっ!!!」


アンは心の底から懇願した。



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