104.護身術
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...
アンが目覚めてから数ヶ月経ち、ようやくハツラツとしたアンの表情が戻ってきた。顔色も良く、ふくふくとしたピンク色の頬が戻った事に皆が安堵していた。
アーサー、エレン、オリビアはそれを見届けると、ひとまずはスコットウォルズに帰ることとした。
アンはそれから、きちんとあの日の出来事と向き合うため、王都内を見て回りたいと騎士団に相談した。
すると、
「護衛はいつでも着くけど、もしもの為に魔法使い殿にも護身術教えよっかー?」
と、コナーという騎士が気軽に声をかけてきてくれた。
ふわふわのゆるいウェーブのかかった栗色の髪が、彼の人懐こいイメージを助長する。ニコニコと提案してくれる彼に、ふと自分も護身術を習っておくに越した事はないと思う。運動神経にも自信があった。
咄嗟に自分自身で身を守れれば、周りを巻き込む事も減らせるかもしれない。アンは両手の拳をグッと握り、「やってやる...!」と心に誓う。
後ろで精霊達が、出番が減るとブーイングが聞こえるが、だからこそアンはお願いする事にした。
「コナーさんお願いします!私、自分の身は自分で守れるようになりたい!守られるだけの存在なんて嫌なんです!!」
半分冗談で言ってみたコナーは、目の前の華奢な彼女が必死な顔でお願いするものだから、少し戸惑った。目の前にいるゆるふわ系の彼女が、どう見ても運動神経が良いようにはイメージしにくい。
「も、問題は...アンさんの身体能力がどのくらいかってとこと、団長達が許してくれるかどうかですかね。」
「グレイソン団長は確か今日はいらっしゃらないのですよね!私、セトさんのお仕事が終わったら聞いてみます!」
アンは目を輝かせて行ってしまった。
「...おい。」
後ろからカレブに肩を掴まれ、コナーはビクッ!!!と肩を上下させた。
「俺らが鍛錬で魔法使い殿を傷付けたら、精霊様に殺されるんじゃないのか?」
カレブが後ろから睨みつけているのが分かって、コナーは直立不動状態になった。
「まあ〜ちょっとした護身術は、あっても悪くないと思うがな〜。団長達がどんな反応をするんだか。」
と、横で聞いていたマークが苦笑いした。
...
「セトさーーーん!」
騎士団の演習終了後、アンが手を振って走ってきた事にセトは驚いた。
その上、何やら動きやすそうな服装で髪を一つに結っている。
セトは返事をするのも忘れて、ジッとアンの服装を眺めてしまった。見たこともない服装だ。
「あ、...コレですか?貴族や王宮ではまだ受け入れ難い服装ですかね...。動きやすいのがこれしか無かったんです。」
そう言ってアンはくるりと一回転して見せる。
スリムな形の不思議なスカートだと思ったものは、かなり幅広な黒いパンツだった。所謂ガウチョパンツだ。
そして、Tシャツには美しい花の絵柄が描かれていた。これは巷で流行りの、確か街一番の美人と名高い花屋が着ていたものと同じような柄だと分かった。
派手な柄だが、アンのサラリとしたプラチナブロンドの髪にはとてもよく映える。
いつものゆったりとしたワンピースではないため、ウエストラインやヒップが強調されて彼女の華奢さが引き立っている。
そして何より、今まで見た事がないゆるっとまとめられたポニーテールは大人の色気があった。いつもの可愛らしい雰囲気とは異なり、無造作に流れる後れ毛がアンニュイなイメージを作り出し、控えめに言っても最高だった。
「〜〜〜って聞いてますか??」
気がつくとアンがセトを真下から覗き込んでいた。腰に手を当て、ほっぺをぷくっとさせているからリスのようで可愛らしい。
「え、あ、はい!可愛いです!」
セトは慌てて切り返す。
が、アンは護身術の話をしていたつもりなので、何のことかとキョトンとした。そのまま首をコテっと傾げた。
その動作の可愛さは...
セトを再起不能にした。
...
「...と、言う事ですみません、アーロ団長に確認に来た次第です。」
カレブは頭を下げる。
コナーとカレブはアンを連れて第3騎士団団長室に来ていた。
アーロはグレイソンやセトと違い、40歳頃の父親のような雰囲気の団長だった。そのグレイヘアがより威厳を出していたし、実際、アーロの事を親しみを込めて親父と呼ぶものもいた。
「なるほど...。魔法使い殿に護身術を教えるという事ならば問題はないと思います。念のため、明日私からヘンリー殿にも伝えておきましょう。」
「あ、さっきヘンリーおじさんの精霊様が、いいよと言ってたと伝えてくれました。やる時には、風の精霊様には手出ししないように毎回確認する前提で、です。」
「...承知しました。」
アーロはあのヘンリーをおじさん呼びする目の前でニコニコとする娘に、何か嫌な予感がした。
アーロのこの時の直感は、間違っていなかった。
...
「では、その服装ならば大丈夫ですね。そのまま今日は、アン殿の運動能力を見せて頂くところまでお願いできますか?」
アーロは演習場に出て、30分ほどアンの能力テストを行う事にした。
「団長さん自ら見て頂くのは申し訳ないです...。」
と、アンは申し訳なさそうにアーロについて行った。
「セトに頼んでも、アイツも団長ですよ。しかも私より格上だ。私に頼んだ方が正しいと思いますよ。」
アーロは朗らかに笑ってアンの頭をポンポンと撫でた。こういうところがやはり父親感が滲み出ている。アンはアーロの手にホッとする。
「では、着きました。何をすればいいかも分からないと思いますので、私たちの動きを真似してもらってテストとしましょう。」
アーロはそう言うと、武器は使わずに組み手の基本動作をはじめた。
アンの華奢な腕では、ヒョロヒョロと踊っているような動きになってしまう。そもそも剣も銃も重くて持ち上がらない。
そうなると、誰もが思っていた。
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