03耳と尻尾は崇めるべし。
今回は、やっとモフモフ要素が出てきます。
VIVA、モフモフ!(っ ◜ω◝ c)
「.......リル、新しいお前らの仲間だ。優しく接してやってくれ」
シュベル、ジャドゥ、俺は彼女の言葉を待つ。
痺れを切らしたハーレイさんが「.......挨拶」と促すと、フラッと彼女は彼の大きな背中から顔を覗かせた。
俺は思わず息をのむ。
その顔に映るのはただただ真っ黒な黒い瞳。
その中には何も無い、ただただ闇が広がっている。
『彼女の心は今、何も見ていないんだ』
直感的にそう思う。
この眼......
俺はその眼を知っていた。
勇者だった一ヶ月の間、王国に侵略してきた魔物と戦った事あった。
固有スキルを発現させていなかった俺は他の勇者とは離れ、後方に陣する補給部隊の更に後方に陣する『復興部隊』に所属していた。
復興部隊の主な仕事は魔物の襲撃により壊滅した村、小規模な街の復興だった。
「その時だ......」俺は小さく呟く。
彼女のような眼を持つ人々を何度も見たのは。
魔物に家族を目の前で殺された人。
自分以外のモノを全て失った人。
自分の感情さえ失った人。
何度も何度も見てきた光景だ。
誰も気にかけない下々の国民たちの苦しみ。
勇者としてもうちょっとでも早く駆けつけていれば。
固有スキルを手にさえしていれば。
俺はこの眼に自分の無力さへと向き合わされたんだ。
少しでも、こんな感情の無い眼をする人を減らすために、俺は勇者として戦っていた。
それでも......やはり俺では無理なのだ。
『固有スキル』を持たない俺に魔物を倒す力は無い。
できるのは、惨めにも敵を引き寄せて逃げるだけ。
彼女に何があったのかは分からない。
けど、勇者とは、『この世に生きる人類の希望』だ。
絶望、不安、憎しみ、怒り。
そんな感情を持たせないよう、全力を尽くすことこそが究極の使命。
そうでは無いのだろうか。
ぎゅう。
気がつくと、俺は自分でも無意識に思わず彼女を抱きしめていた。
冷たい。
痩せ細り骨張った小さな体。
抱きしめた俺に見向きをせず、彼女はその場に立っているだけ。
涙が出てくる。
同情とか、そういうのではない。
こんなに小さいのに、彼女は何をどれだけの物を抱えているのだろう。
俺はただ、彼女に自分を重ねていただけだ。
小さい頃の自分に。
俺が救われた、人の暖かさ。
彼女にそれを与えようと思った。
「......」
俺が抱きしめると、彼女は静かに涙で頬を濡らした。
その夜のことだ。
最初に伝えておく。
俺は決して少女趣味なわけじゃ無い。
ボン・キュッ・ボンな女性が好きだ。
俺はチラッと右腕を見る。
綺麗でサラサラの髪。
長い睫毛。
そう、リルが俺の腕にしがみついていた。
昼間、彼女を急に抱きしめてしまったのだが、それからというもの、彼女は俺から一時も離れようとしなかった。
他の三人は笑いながら俺たちに一番大きな檻を使わせてくれた。
やっぱ優しいよ、あいつら。
不安だったんだろう。
今だってほら、涙がうっすらと月に照らされて光っている。
寝ているはずなのに、俺の腕を掴んでいる。
信用されてるのかな?そうだったら嬉しいな。
だけど、男には我慢ならない時もある。
音を忍ばせ、俺はゆっくり手を伸ばす。
彼女を抱きしめていたときに気付いたのだが、この耳と尻尾。
めっちゃもふもふしてて触り心地撫で心地最高だー!!
目を覚ませば、警戒心の強い彼女の事だ。
俺には触らせてくれないだろう。
それは、あまりにも酷い。
残酷すぎる。
つまり、今しかチャンスはないのだ。
俺の震える両手がそっと彼女の猫耳を触れる。
もふっ。
もふっ。
もふっ。
俺の両手は、彼女の猫の耳に添えられている。
その天国のような触り心地に、思わず優しく耳を撫でると、少女の体がビクッと反応する。
「ふ、ふにゅ......」
「っ〜〜!!!!!!!」
なんだよ、これ。
この暖かくてもふもふした耳、触ってると物凄く安心するぅ。
起きてる時は警戒心強くて触らせてもくれないのにぃ。
寝てる間に触ると......グフッ。
しかも一々反応が可愛いんだよ!!馬鹿!!もっと触らせて!!モフらせて!!癒して!!
もふ、もふ、もふ、もふもふもふもふもふもふもふ。
「ふにゅ......ん、んん.......」
天使や。
え、なにこれ。
もう一生離さないわ。
ずっともふる。
あったかくてもふもふな耳と尻尾。
なにこれ神ですか?
ここはまさしく桃源郷なんですか?
全人類の癒しの理想郷なんですか?
そうなんですか?!
こんな癒しがあるなら一日二十時間は働ける気がする、ほんとに。
あっちの世界では間違いなくブラックな働き口だけど。
俺はふと彼女を見つめる。
長い睫毛に綺麗な黒い髪。
綺麗な藍色の眼に、すべすべな肌。
そして何より、天使のような『耳』と『尻尾』。
まるで奴隷とは思えない。
「......一体リルに、なにがあったんだろうなぁ」
こんな少女がこんな眼をしてちゃダメだろ。
子供の内は幸せに生きるべきだ。
笑いながら無邪気に残りの人生を過ごさせる、絶対だ。
......たとえ俺がどうなろうとも。
「......ハーレイさんなら何か知っているかもしれないし、明日の朝にでも聞いてみるか」
そう呟き、ひじょ〜に名残惜しいが両手を彼女から離す。
く、もっと触りたい!!
ほ、ほんとに最後にもう一回だけ、もふもふもふってしよ。
もふっ。
.......次がほんとに最後、絶対。神に誓う。
もふっ。
や、やっぱあともう一回かなぁ。
もふっ。
......この後、勿論いっぱいモフモフした。
もふもふしていたせいでちょっと寝不足なのは内緒だ。
ありがとうございました。
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