02奴隷にも自分の意思はある。
今話でやっとタイトルに近づいてくるはずです。
最終的には癒される可愛い獣耳っ娘を描いていきたいと思っています。
よろしくお願いします。
ここは俺が居た王城から遠く離れた宿場町のはずれ。
小さな動物用の小屋、納屋だ。
俺はいつも通り仮の主人として契約した奴隷商人のため、馬を洗っていた。
日頃から奴隷用の檻を三つも轢いている力持ちさんだ。
ちなみに、俺の他にも奴隷はいる。
俺より少し年上だと思われる青年『シュベル』。
世にも珍しいリザードマンの騎士『ジャドゥ』。
どちらも勿論男性だ。
女性の奴隷とはまだ会った事がない。
奴隷になってまだ一週間という短い期間が理由でもあるだろうが、一番の理由はやはり、需要があるからってのが大きいと思う。
奴隷商人の主な取引相手は貴族だ。
大抵の場合、女性は高値で直ぐに売れる。
言うのも憚れるが、所謂アダルトな行為のために愛人ではなく『奴隷』を買う貴族の男性が多いそうな。
安くて替えがいくらでもあるのが理由だそうだが、はっきり言ってムカつく。
女の子は大切にするべし、これ大事。
「.......〜♪.......〜♪」
俺は一人、憤りを覚えながら馬を丁寧に洗う。
あぁ、他の勇者は元気にしてるかな。
これでも元クラスメイトだからな、多少は心配になるってもんよ。
......まぁ、あいつら固有スキルを目覚めさせられない俺の事を勇者の恥だとか影で言ってたっぽいけど。
そんな事を考えながら鼻歌を歌いながら馬の手入れをしていると、我らが主人がドシンドシン歩いてきた。
我らがご主人、『ハーレイ・シュトゥル』。
筋骨隆々、タンクトップの上半身は奴隷商人というよりまるで戦士だ。
しかもそんないかつい見た目に反してこのご主人様、非常に優しい。
俺ら奴隷に対しても対等に接してくれる。
「......体調が悪くなったら直ぐに言え。倒れられたら堪らない」
彼はそう言うとズシンズシンともう二つの檻へと向かった。
おそらく、シュベルとジャドゥの様子も見に行ったのだろう。
やはり優しい。
それでいて口下手なのである。
しかし、そんな彼は奴隷商人としても少し、いやかなり変わっている。
とにかく異常、それは俺たちの状態を見た買い手の驚いている反応からも良く分かる。
そして、俺もその事には気が付いていた。
2、3日前、ある奴隷市場に連れて行かれた時だ。
俺はあまりにも酷いその惨状に思わず目を疑っていた。
他の奴隷商人の奴隷に対する態度、言葉遣い、そして暴力。
この世界の本当の顔、それが包み隠さずここでは露見している。
俺はそう思った。
「おらぁ、お前ら!さっさと歩かんか!.......そこのお前、遅い!!」
ピシ、ビシ!
その女性奴隷は「......ごめん、なさ、い」と謝りながらヨロヨロと走り出そうとしたのだが、足がもつれ転んでしまう。
俺は思わず、彼女の姿に目を疑った。
両手を拘束する鋼鉄の手錠。
彼女が身にまとっていたのは到底『服』とは呼べないボロボロな布切れ。
首にはめられた首輪、首輪から伸びる鉄製の鎖。
そして痩せこけた体、ボサボサになった髪、骨張った顔をギョロギョロと不気味げに動く二つの眼。
誰も彼女を助けないのか?
そう思って俺は周囲を見回した。
しかし、俺の目に入ってきたのは同じような格好をした奴隷たちだった。
ショックで呆然と立ち尽くす。
こんな事が許されて良いのか?
その後、彼女は舌舐めずりをしながら彼女を見つめていた貴族に買われていった。
俺は誰にも興味を持たれず、買われなかった。
俺は歯をグッと口元を抑える。
思い出しただけでも吐き気がする。
俺の心の奥底から怒りや憎しみが溢れ出す。
人身売買、人が人を虐げる事が当たり前のように行われるこの世界。
国民の為に尽力している勇者たちは、この光景を実際に見た事があるのだろうか。
国王や貴族、裕福な者たちは見た事があるのか。
それとも、このこの世とは思えない光景を見た事があるにもかかわらず、こんな非道な行為を許しているのか、続けさせているのか。
ただ、生まれた家が貴族だったか、平民や奴隷だったかで人の価値が決まって良いのか。
それは、勿論『否』だ。
人の価値が生まれた家によって決められてしまうのは間違っている。
「......トーヤ、大丈夫か?」
主人の声に思わずハッと意識が戻る。
怒りに思わず唇を噛み締めていたようで、口の中に鉄の味が広がる。
無理に笑顔を作り、彼に応える。
「すみません、少し考え事をしていました。俺は大丈夫ですよ」
ハーレイさんはその後、少しの間俺の顔を見ながら考え事をしていたようだが、安心したように頷いた。
「馬を洗い終わったら教えてくれ、出発するぞ」
「了解です、もう少しお時間を頂いても良いですか?」
「......あと半刻は猶予がある、頑張って終わらせてくれ」
そう言うと彼は宿に向かい足を踏み出す。
しかし、何か思う事があったのか、急に振り向き思案顔で俺にこう言った。
「......今日から新しい奴隷が増える。亜人種の猫人と人間のハーフだ。名前は『リル』だ」
「.......どうか優しく接してやってくれ」
「はーい」
ハーレイさんは不安そうにそう言うと今度こそ宿屋へと足を向けた。
あの口数の少ないハーレイさんが不安そうにわざわざ伝えたきたのだ。
日頃の恩返しと思って、忠告通り、リルとは優しく接しよう。
俺はガッツポーズをしながら、ふんすと気合を入れる。
この時俺は微塵も思っていなかった。
俺の平和な日常の終焉への時計はすでに動き始めていたのだ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
PV自分が思っていたよりついていてちょっとビックリしました。
拙い文章ですが、これからもよろしくお願いします!