6:自称魔法使い、登場
「やあ、ニコ。今日も甲斐甲斐しいねぇ」
中央広場が近づくと、急に人通りが多くなる。
観光のベストシーズンではないものの、過ごしやすい気候で他国からの人の出入りも多い。中央広場は、この国に海から来ても山から来ても必ず通る道なので、昔からある老舗も多いし、出店の屋台もたくさん賑わっている。
そんな広場に行き交う人々の中で、一際目立つ長身が、ニコを呼び止めてきた。
キリク・ダンスト。
ショークラの攻略対象キャラ6人のうちの一人。
中流居住区の中心的人物というか、リーダー格というか、良くも悪くも目立つ人だ。
まず見た目が目立つ。元々は旅芸人一座を率いて世界中を旅してたとかなんとか、その辺も随分と胡散臭いのだが、とにかく多国籍な民族衣装フルコースみたいな服を着て、長い金髪には色とりどりのエクステやメッシュが入っていて派手だ。
また、彼の肩書は「魔法使い(自称)」で、より胡散臭さが増している。
ショークラの世界では「精霊教」という宗教が生活に根ざしている。所謂自然現象全てには精霊が宿っていて、精霊に祈りを捧げましょう、という信仰だ。一方で、精霊による自然現象を「科学的」に解釈して自在に操ろうとするのがキリクさんみたいな「魔法使い」と呼ばれる人達で、精霊教の教会関係者とは折り合いが悪いらしい。
キリクさんも元々は精霊教関係者らしいけど、何故また翻って魔法使いになったのか。とにかく、腹の中の読めない不思議な(不気味な)人なのである。
ちなみに余談だが、ゲーム版ショークラで、キリクさん関係のシナリオは誰が相手でも左側固定になるため、ユーザーから「スーパー攻め様」と影ながら称えられていたことを追記しておく(笑)二次創作を探しても、彼が右側な作品はとんとお目にかからず、徹底されてると感心したものである。
さておき、喫茶店店員の少年というモブキャラと、攻略キャラがそうそう普段から関わる訳では無いはず……と思ったものの、そもそもレインと幼なじみという補正がかかっている時点で、キリクさんとも接点が自然と発生してしまう。ニコは中流階級居住区で18年生きてきたわけだから、そのリーダー格であるキリクさんと関わってないはずがないのだ。ニコの養父母の老夫婦も、たいそうキリクさんを信頼しているらしい。こんなに胡散臭いのに!
「甲斐甲斐しい……ってなんですか?」
ニコは立ち止まると、声の主に問いかけた。キリクさんは広場の出店の主人と何やら話し込んでいたところで、こちらに気づいて声をかけたらしい。
「それは幼なじみくんへの貢物だろ?毎日毎日通い妻から手作りの差し入れ。いやー羨ましいなぁ」
口調が芝居がかってて、どこまで本心なのか分かりづらい人である。どこ製かわからない赤地に金の刺繍の入ったマントを翻しながら、キリクさんはニコの元までやってきた。頭ひとつ分くらい、ニコより背が高い。
「イヤーソレホドデモー」
「おーい!リアクション雑!そんなに面倒くさそうにすることないだろうに」
いやいや、ニヤニヤしながらからかってくるキリクさんが面倒くさくないわけが無い。普段から頼りになる人だけに、ウザ絡みモードのときは本当にタチが悪いのだ。
「いいじゃないか、レインと君は実に仲良しなんだからちょっと冷やかしてみたって。アイドリングトークだろ?」
「いや仲良しだから冷やかすとか、毎日ランチを配給してるから通い妻とか、短絡的でだいぶ面倒臭いです」
「……ほんとニコってオレに当たり強すぎない?」
「いえいえ、割と平等にこんな感じですよ」
……推し以外には。
「絶対嘘だー!オレに対して一際冷たい気がする!なんでだよー、昔からいろいろ面倒見てきたのにー!」
大の大人の駄々っ子モードは見るにたえない。長身のイケメンなら尚更である。
はぁ、とニコはため息をつくと、持っていたバスケットから、小分けにしていたアランチーノとカンノーリをキリクさんに手渡した。
「別に、レインのためだけに作ってるわけじゃありませんから。自分の食事のついでです」
いやそもそも喫茶店で軽食として販売するはずのものですから。お客さんが皆無なだけで。
「なので、よろしければキリクさんもどうぞ。お口にあうか分かりませんが……」
キリクさんは、レインとは別の意味で食事に無頓着、腹が膨らめば何でもいいタイプで、全く食にこだわりがない人だった。
「ほんとに?それはどうもありがとう!大丈夫、さすがのオレでも、ニコの手作りとあらば、ちゃんと味わって食べるよ」
「ドウデスカネー」
いや、モブキャラ相手にそんなとびっきりの決めスマイル披露しなくて結構ですから……。本当に、真意の読めない人である。