73:始動
レインの手が伸びてきて、一瞬、躊躇った後に、そっとニコの額に触れた。ひんやりとしていて、気持ちいい。
「熱はないみたいだけど……」
「あったとしても知恵熱だから安心して。病気ではないと思う」
「知恵熱?何か考え事?」
「ちょっと、ね。夢見が悪くて」
さすがにレインを含めた攻略対象キャラ全員に迫られる夢を見たなんて言えない。
「変な時間に寝ちゃったからかな」
「ニコは疲れてるんじゃないかな……。ここのところ、何か色々あったし……」
レインは口ごもる。色々、とは、恐らくジェラルドやゼルに会ったことを言っているのだろう。まさか二人に口説かれたとも、最後の一人に会いに行って捕まりかけたとも、ニコはレインには言えない。絶対に心配することが分かっているから。
「そうだね……確かに疲れてるのかも。……レインは?今日も特に何か変わったことはなかった?」
ニコが問うと、レインはギュッと眉間に皺を寄せると、天を仰いでいる。
「なに……?何かあったの?」
「いや、大したことではないんだけど、今日初めての患者さんが来て……その人がちょっと不思議な人だったんだよね」
(……いよいよか)




