72:夢のあと
「……、……コ、ニコ!」
ニコは目を覚ました。
四葉珈琲店の入口に一番近い席で、どうもうたた寝をしていたらしい。時計の針は夕刻を指している。
先程、夢の中でも聴いた鐘の音は、実際の音だったのかもしれない。まだ夢の続きを見ているかのようで、ぼんやりする頭を起こすと、心配そうにこちらを覗き込んでいるレインと目が合った。
「レイン……?どうかした?」
「どうしたも何も……今日一日姿が見えなかったから、帰りに店に寄ったんだよ」
そうか、寺院でゼルとエミールに会った後、帰宅して適当に食事をして……そのまま寝てしまったのだ。悪夢を見たせいか、数時間前のことがひどく昔のことのように感じられる。
「そっか、ごめん……今朝ちょっと用があって。差し入れ持っていけなかったね。ご飯食べた?」
「それはまあ……いいんだけど」
「……食べてないんだね?」
やれやれ。レインは自分のことにはとことん無頓着だ。
「……別に、一日くらい何も食べてなくても大丈夫だよ」
「またそんなこと言って……何か食べてく?」
「いや、チェルシーが何か作るって言ってたから」
「そっか」
「それより、ニコの方こそ……どうかしたのか?顔色があまりよくない気がするんだけど」
「そう、かな?」




