表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/85

71:悪夢


ゴーン……ゴーン……ゴーン……ゴーン……


ショーンクラウド精霊教寺院の鐘が鳴り響く中、ニコは中央広場に一人、立ちつくしていた。

いつも行き交う人々で賑わう中央広場には、ニコ以外の誰一人として見つからない。

ああ、これは夢なのだ、と思う。

辺りは深い霧が立ち込めていて、この鐘の音が夜明けなのか日没なのかわからない。

導かれるように、ニコは寺院へ続く階段を目指して歩いていくと、目の前に六つの人影が浮かび上がってくる。

レイン、リュード、キリクさん、ジェラルドにゼル、そして先日ようやく出会えたエミールの六人が、階下のニコを見下ろしていた。

ショークラファンにしてみれば、眼福以外の何物でもない、ゲームのパッケージイラストか何かかな?と思われる程の尊い光景だった。

ニコは目が眩みそうになりながらも、六人を見上げる。


「ニコ、君のことが心配なんだ。いつだって、僕のことを頼ってほしい」


レインがこちらに向かって右手を差し出してくる。


「お前は危なっかしいからな。何か困り事があればいつでも言ってくれ」


リュードが続く。


「君が本当は何者なのか……俺にだけは、本当のことを教えてくれないかい、ニコ」


キリクさんが怪しく微笑む。


「また屋敷に遊びに来てくれ。ニコといると穏やかな気持ちでいられるんだ。また一緒に食事がしたい」


ジェラルドが優雅な仕草で手を差し伸べる。


「俺を選んでくれるよね、ニコ」


ゼルが直球でアピールすれば、


「貴様は私の秘密を知っているのか?ならば……わかっているな?」


エミールは仁王立ちでこちらを睨みつけてくる。

……なんて贅沢な夢だ。攻略対象キャラ全員に迫られるなんて、一ファンとして、もしも夢属性でもあれば垂涎もののシチュエーションだが、ニコにとってはある意味、悪夢だ。

違う、そうじゃない。

私自身が好かれても意味が無いのだ。

応えられない好意を向けられてもキツいだけだ。お互いに。


「……やめてくれ……僕は、要らない。応えられない……そんなものが欲しかったわけじゃないんだ」


「じゃあなんでキミはココにいるのかなぁ?」


俯いて頭を振るニコに、背後から咎めるような声がかかる。

ニコが振り返ると、小柄な少年が立っていた。ピンク色のふわふわの猫毛に、中性的な顔立ち、円な瞳が、真っ直ぐにニコを見つめていた。


「君は……!」


「ボクの目的は期限までに愛を成就させること。キミは?キミもそうだったんじゃないの?そうじゃないなら、何故、ココにいるの?何のために?」


可愛らしい高音の声が、明らかに敵意を持ってニコを責めてくる。

ニコの目的。ニコが、ここにいる理由。


「僕は……」


(僕は、何と答えたんだろう……)


少年の姿が、自分の姿が、深い深い霧に覆われて見えなくなって行く……。


ゴーン……ゴーン……ゴーン……ゴーン……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ