71:悪夢
ゴーン……ゴーン……ゴーン……ゴーン……
ショーンクラウド精霊教寺院の鐘が鳴り響く中、ニコは中央広場に一人、立ちつくしていた。
いつも行き交う人々で賑わう中央広場には、ニコ以外の誰一人として見つからない。
ああ、これは夢なのだ、と思う。
辺りは深い霧が立ち込めていて、この鐘の音が夜明けなのか日没なのかわからない。
導かれるように、ニコは寺院へ続く階段を目指して歩いていくと、目の前に六つの人影が浮かび上がってくる。
レイン、リュード、キリクさん、ジェラルドにゼル、そして先日ようやく出会えたエミールの六人が、階下のニコを見下ろしていた。
ショークラファンにしてみれば、眼福以外の何物でもない、ゲームのパッケージイラストか何かかな?と思われる程の尊い光景だった。
ニコは目が眩みそうになりながらも、六人を見上げる。
「ニコ、君のことが心配なんだ。いつだって、僕のことを頼ってほしい」
レインがこちらに向かって右手を差し出してくる。
「お前は危なっかしいからな。何か困り事があればいつでも言ってくれ」
リュードが続く。
「君が本当は何者なのか……俺にだけは、本当のことを教えてくれないかい、ニコ」
キリクさんが怪しく微笑む。
「また屋敷に遊びに来てくれ。ニコといると穏やかな気持ちでいられるんだ。また一緒に食事がしたい」
ジェラルドが優雅な仕草で手を差し伸べる。
「俺を選んでくれるよね、ニコ」
ゼルが直球でアピールすれば、
「貴様は私の秘密を知っているのか?ならば……わかっているな?」
エミールは仁王立ちでこちらを睨みつけてくる。
……なんて贅沢な夢だ。攻略対象キャラ全員に迫られるなんて、一ファンとして、もしも夢属性でもあれば垂涎もののシチュエーションだが、ニコにとってはある意味、悪夢だ。
違う、そうじゃない。
私自身が好かれても意味が無いのだ。
応えられない好意を向けられてもキツいだけだ。お互いに。
「……やめてくれ……僕は、要らない。応えられない……そんなものが欲しかったわけじゃないんだ」
「じゃあなんでキミはココにいるのかなぁ?」
俯いて頭を振るニコに、背後から咎めるような声がかかる。
ニコが振り返ると、小柄な少年が立っていた。ピンク色のふわふわの猫毛に、中性的な顔立ち、円な瞳が、真っ直ぐにニコを見つめていた。
「君は……!」
「ボクの目的は期限までに愛を成就させること。キミは?キミもそうだったんじゃないの?そうじゃないなら、何故、ココにいるの?何のために?」
可愛らしい高音の声が、明らかに敵意を持ってニコを責めてくる。
ニコの目的。ニコが、ここにいる理由。
「僕は……」
(僕は、何と答えたんだろう……)
少年の姿が、自分の姿が、深い深い霧に覆われて見えなくなって行く……。
ゴーン……ゴーン……ゴーン……ゴーン……




