68:天使が見ていた
やはり慣れないことはするものでは無い。お貴族様方の領域であてられてしまった。
一般市民は一般市民らしく、普通の平凡な生活に戻ろう。
「気が抜けたらお腹すいてきたなぁ」
朝一で寺院に突撃したが、気がつけば日も高く、既にお昼時である。とにかく何かを腹に入れよう。腹が減ってはなんとやらだ。
ニコは油断するとその場に座り込んでしまいそうな体に鞭打って、えいっと中央広場へと続く階段を下って行った。
そんなニコの姿を、寺院のモザイクタイルの装飾が美しい壁面に腰掛けて、両足をプラプラさせている少年が見下ろしていた。確実に落ちたら命は無い高さである。
「ふーん、あいつがボクの使命を邪魔するバグちゃんかぁ。想像してた以上に冴えない見た目だなぁ」
明らかにニコへの悪意が感じられる小馬鹿にしたような声色で、少年は呟く。
「あんなつまらないバグちゃんにボクの愛溢れる美しい計画がめちゃくちゃにされるなんて耐えられないよ!ぜったい、ぜーったい!美しい愛を成就させて、ボクは大天使の称号を手に入れてやるんだからねっ!」
誰に聞かせるでもないモノローグをなかなかの声量とオーバーな身振り手振りで宣誓すると、少年はひらりとその場から飛び降りた。あわや壁面、もしくは崖下の木々に激突かと思われた瞬間、その背中には真っ白な両翼が現れ、身を翻すと再び舞い上がり、少年の姿はあっという間に見えなくなった。




