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5:ニコの日常

ニコの日課。レインへの差入れ作り。午前9時、一応開店準備はしたあと、自分のための、カプチーノを一杯。心ゆくまでフワフワにしたミルクを堪能しながら、


「今日は揚げ物の日にしよう……」


つぶやき、ぼんやりとメニューを決めた。

魚介のフリット、生ハムとモッツァレラチーズ入りのアランチーノ、チョコチップ入りのカンノーリ。塩辛いものから甘味まで。


「フリットはやっぱり港の屋台で買うのが断然美味しいけどねー……この間漁師さんに分けてもらった魚のすり身がまだあまってるんだよなぁ」


四葉珈琲店の一階のキッチンをフル活用しつつ、フリットは出来たてをつまみ食いしながら、淡々と揚げ物を量産していく。この没頭できる感じが、ニコは嫌いじゃない。

お客さんは、来ない。

そもそも開いていることを知ってる人がいるのか怪しい。まるで宣伝活動などしていないのだから。


ニコの午前中は揚げ物作成に費やされた。気がつけばお昼時だ。出来上がったランチをバスケットに詰めると、ニコは店を出た。


二月末。季節はすっかり春で、レモンの花の爽やかな香りが鼻腔をくすぐった。この調子であっという間に陽射しが強くなって、帽子や日傘なしでは到底出歩けない、リゾートで賑わう夏がやって来るのだ。

まあ特にイベント事には無関心なタイプなので、ニコの日常は季節によって格段変化するわけではないのだけど。

四葉珈琲店は中央広場から細い路地を入って入って入り組んだ石畳の道を進んで進んでやっとたどり着ける。看板はあるものの、趣と歴史は感じるが華やかなメインストリートからかけ離れ過ぎていて、そもそも喫茶店を構える立地ではないのが伺える。知る人ぞ知る店すぎる。

レインの職場である診療所兼薬局は中央広場付近のメインストリート沿いにある。ニコは急いだ。


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