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67:今日の日はさよなら

ゼルがそもそもの原因とは言え、エミールの元から無事帰還できたのはゼルのお陰だ。なんだかんだ良い奴だし、彼のことを「鬱陶しい」などと思いたくない。だからこそ、これ以上親しくなることは避けたい。


「お会いできません。少なくともしばらくは」


二度と会わないと言えなかったのは、ゼルが思いのほか寂しそうだったからだ。そう、原作のゼルは比較的攻略しやすくて、親密度を深めるごとに彼の過去や本質に切なくなるストーリー展開が良いのだ。この目で見たい。ものすごく。しかしゼルの相手が自分ではならない。そう、モブキャラの視点から、ストーリーを眺めていたいのだ。


「ふふ、相変わらずニコはつれないよなぁ。ちょっとくらい流されてくれればいいのに」


ゼルの手が、ニコの耳元へ伸びる。触れるか触れないかの距離でピタリと止まった指先に、ニコの体は一瞬強ばった。


「また会おう、ニコ」


ゼルは弱々しく微笑むと、パッと手を引っ込めて、踵を返して行ってしまった。ヒラヒラと右手を振りながら遠ざかっていく背中を眺めながら、ニコはようやく解放されたのだ、と身体中の緊張が解け、一気に疲労感が押し寄せてきた。

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