64:どうも友人の様子がおかしいのだが
ニコを挟んで、睨み合う攻略対象キャラ二人。……どういう状況なんだこれは。ニコは小さくため息をついた。
(しかし面倒なことになったな……。エミールのバックには主人公がいる……貴族ルートに入ったはずなのにキリクさんとも接触してるっぽかったから判断が遅れた……。呑気に構えていたけど、近々他の攻略対象キャラにも主人公は会いに行くだろう……。とりあえず、ここは既に奴の領域。できる限り害がないように装って、とっとととんずらせねば)
ニコが鬱々とした気分で物思いに耽っていると、不意にエミールに掴まれていた腕が払われて、再び目の前が赤い鎧で塞がれる。
「天使様のお告げだか何だか知らないが、捉えるにしろ尋問するにしろ、それなりの正規のルートを通してからにしないとお前の方が罪に問われるぞ。王国執政官が聞いて呆れる」
ニコからゼルの顔は見えないが、珍しく、どうやら彼は怒り心頭らしい。そこまでして庇われてしまうと、なんだか申し訳なくなってくるニコなのである。一応、疑われる理由が実際にあるだけに。
「ほう……貴様にそんな正論を言われるとは思わなかったな、ゼル。命拾いしたな、庶民。左遷貴族に続いて、騎士団長まで手中に収めるとは」
「エミール!」
(収めてませーん)
やれやれ。主人公は一体エミールにどんなニコの評判を吹聴したのか。貴族の有力者を次々と誘惑しては意のままに操るビッチキャラなどと思われていたらそれなりに心外である。期待に添えそうにない。そして左遷貴族ってサラッとひどいな。エミールの、ニコに対する悪意とはまた違ったジェラルドに対する悪意を感じる。
「お前こそ、おかしいぞ。その天使様とやら、その言葉を盲信するお前はなんなんだ?」
怒りと同時に、知り合いの異変に混乱しているらしいゼルは、それでもなおニコを庇う様にエミールの前に立っていた。
ゼルの言葉に、エミールが我に返る様子はなく、どこか恍惚とした表情で、ここでは無い明後日の方を眺めている。なんか、やばい。
「貴様にもすぐわかるだろう……あの方が貴様の前にも現れたら、すぐに……」




