63:やはりバックには奴がいる
本来ならば、既に「ゲーム開始」している日付なのだ。何故かキリクさんは既に接触しているっぽかったが、恐らく「貴族ルート」に入っているだろう、人物。もしもその人物が、ニコが特殊なモブキャラだと気がついていたとしたら……。
いや、どうも気がついているのだろう。だって相手は……。
「おい、罪のない住民に手を上げるのはよせ!」
「罪のない、とはまだ言いきれない」
「いや、そうだとしても乱暴はやめろよ!執政官に有るまじき態度だろう。どうしたんだ一体……エミール、何かニコが刺客だと断定できる証拠でもあるのか?」
怒りのせいか、動揺して声を荒らげるゼルが、都合よくニコが聞きたかった質問をしてくれる。問われたエミールはふっと天を仰ぐと、ひどく冷静な声で呟いた。
「……天使様からのお告げだ」
「はっ?」
(……やっぱり)
エミールの答えに、場違いな冗談でも言われたかのようなゼルは呆気に取られていたが、ニコは思い当たる節があって内心腑に落ちていた。
天使様、とエミールは言った。
ショーンクラウド精霊教寺院に鎮座する巨大な天使像、のようなシンボルではなく、もっと具体的な人物。
ゲーム版「ショーンクラウドに鳴る鐘は」のプレーヤーの分身で主人公の彼は、精霊界ミシェルファンから来た天使なのだ。
(つまり、主人公はエミールと既に接触していて、ニコの中身のことにも気がついていると見ていい)
エミールは敬虔な精霊教信者である。目の前に自分が祈りを捧げる対象が現れ、危険人物が近づいている、などと預言でもしようものなら、何の疑いもなく駆けつけるに違いない。エミールはこんなだが、分かりやすく純粋なキャラなのだ。




