60:疑惑
完全に寝耳に水。ニコが呆気に取られていると、大真面目にエミールは言い放った。
「ニコ・キッドソン。先日、あのジェラルド・ジョリーを保護したとか言う庶民が、今日は何故か王国騎士団長の指輪を持って現れた。ここ数日の急激な貴族との接触、不自然すぎはしないか?」
なるほど。確かに、今日の指輪を持っての来訪はエミールに会うために意図したものだが、ニコ自身も有り得ない展開だと思っていたジェラルドを筆頭とする攻略対象キャラとの立て続けの邂逅イベントは、周囲から見ても不可解なものだったのだ。
「貴様、何を企んでいる?」
だから、エミールは疑っているのだろう。目の前のひょろひょろの庶民が、何か目的があってジェラルドやゼルに接触したのではないかと。刺客、と決めつけるのは、些か早計な気もするが。
ニコは一瞬だけ、あの夕暮れの浜辺で、ジェラルドを助ける選択をしたことを後悔した。一介の庶民が貴族と関わるということは、あらぬ誤解や疑いをかけられることは予想出来たはずなのに。うっかり、先を知りたい衝動に駆られてしまったのだ。
しかし、今更過去の選択を悔いてもしかたがない。このルートにリセットボタンはないのだ。前に進むしかない。
「エミール、何言ってんだよ!ニコが刺客って、そんな訳ないだろ」
ゼルは真顔のエミールに構いもせず、朗らかに声を上げて笑っている。
「ジェラルドを助けたのは偶然だし、指輪を持ってたのは全部俺のせいだよ。ニコの店には俺から訪ねて行ったんだし」




