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56:扉の先は


「指輪は無事持ち主の元へ返った様なので……僕はお暇しますね」


「またまた〜、そう冷たいこと言わずに」


気がつくとニコは壁際まで追いやられていた。何となく次の一手が予想出来てしまったが、案の定、ゼルが壁に手を付いて正しく「壁ドン」してくる。要らない、メインキャラがモブキャラを壁ドンする画は要らないよ!と内心ニコは荒ぶっていた。


「……上流階級の縄張りで、一人でうろつく勇気があるのかい?」


「ぐっ」


長身のゼルに見下ろされつつ、耳元で告げられたその言葉に、ニコは呻いた。

ショーンクラウド精霊教寺院は、この国のシンボルであり、観光の目玉であり、国の中枢機関の集まりであり、そして、上流階級居住区と中流階級居住区の境目でもある。

ニコが先程門番と共にくぐりぬけた扉の先は、上流階級居住区へ続いていたのだ。厳密に言うと、ニコがゼルに見つかった場所はまだ寺院の内部ではあるが、もちろん許可証が無ければ入れないエリアである。例外として、事件の容疑者として捕えられた者や、何らかの理由で連行されてきた者は、許可証無しでも門を潜ることはできるだろうが、当然のように監視が付く。

つまり、許可証を持っていないニコが一人でうろついていたら間違いなく不法侵入者扱いで今度こそ本格的に捕まってしまうだろう。

ここは目の前の変わり者の貴族に頼るより他なさそうだった。


「ニコって馬鹿じゃないとは思うんだけど、結構向こう見ずなんだね。好奇心で身を滅ぼすタイプ!」


あはは、と軽やかに笑い声を上げるゼルに、ニコは返す言葉もない。元々穴だらけの計画ではあったが、どうもこの辺りが限界のようである。


「悪かったですね……。そもそも、騎士団長が店に指輪を忘れていくのがいけないんですよ!いつもの手口なのかもしれませんが、貴重な指輪を次に繋げる材料に使わないでください……バチがあたりますよ、本当に」


「ありゃ、やっぱり全部バレてたんだね」


張り詰めていた空気が一気に気の抜けてものになる。緊張が解けたせいかまくし立てるニコに、ゼルはキョトンとしている。


「やっぱりニコは馬鹿じゃないね。でも、だとしたらなんでこんなことしたの?」


「それは……」


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