48:バックには奴がいる
名残惜しそうだったジェラルドとは屋敷の前で、馬車で送ってくれたトム氏とは中央広場で別れた。どっと疲れが押し寄せてきた。
昨日、いや正確には一昨日から怒涛の展開過ぎて流石に疲労感がヤバイ。まだ日は高いのにもう既に眠ってしまいたい。今から寝ても朝まで余裕で寝られる気がする。
「やあニコ。お疲れみたいだねぇ」
そして更に疲れを助長させる人物が現れるのである。
「…………」
「いや何か言ってよ!」
「…………」
チラリ、と一瞥をくれたのち、小さくため息をついてその場をニコが立ち去ろうとしたら、声の主、キリクさんは泣きそうになっていた。
「ニコ〜!ごめん、ごめんってば!そんなゴミでも見るような目で見ないでよ〜!」
「僕は何に対して謝られているんでしょうか?」
自分でも思ってた以上に冷たい声が出てしまった。いや、本来キリクさんにニコは助けて貰っているはずなのだが、もっというとジェラルドがキリクさんに助けられているのだが、なんだかムカつくのでやっぱり当たりが強くなってしまう。
魔法使い、とかキリクさんの立場がいろいろ胡散臭いのは置いといて、あの夜のキリクさんの言動は、やはり解せない。何かの圧力というか、誰かの意思が働いているかのように感じた。
「ジェラルド・ジョリーさんの屋敷に招待されてきました。キリクさんも声をかけられていたのでは?」
「あ、ああ……、そうだね。都合が悪くて断ったら、後日改めて礼に来るって……。ていうか、俺の名前出したのニコだよね?別に俺は通りがかっただけなんだから、別に言わなくたって良かったのに……」
キリクさんがしどろもどろになっている。口数も多い。
「キリクさんは……何を、ご存知なんですか?」
ニコは真顔で問うた。
「……どういうことかな?」
「じゃあ聞き方を変えます。誰の、差し金なのですか?」
一瞬、とぼけようとしたキリクさんをニコは見逃さない。
「……ニコのほうこそ、どこまで知っているのかな?」
キリクさんの目がすっと細められる。微笑んでいるようにも、睨みつけられているようにも見えた。ニコはそれ以上お互い喋るつもりがないことを悟った。
しかし、それが一番の答えだ。
恐らく、キリクさんは既に「会っている」。
時間が無い。
やはり、ゲームは始まっているのだ。
誰かの手の上で転がされるというのは不愉快だが、この際文句は言ってられない。
自分の目的のために、いかなる機会も利用し尽くすと、ニコは決めていた。




