3:今日も推しが尊い件について
ショークラには6人の攻略キャラがいる。
ニコが暮らすのはショーンクラウド王国の中流階級から庶民が多くを占める居住区で、階級的にはそこそこお金に余裕のある庶民である。
ニコは孤児でお金持ちの老夫婦に引き取られ、悠々自適老後ライフを満喫する老夫婦に持ち物である喫茶店を任されている、というモブにしてはあまりに至れり尽くせりな都合のよい設定まみれなのである。むしろ主人公かよ!
前世は薄給であくせく働いていた(と、いう朧気な記憶はある)自分が、まさか転生後に若くしてほのぼの隠居生活みたいなことになるとは。幸運すぎる。むしろ私は何か前世で徳を積むようなことをしたのだろうか?いや、してない(覚えがない)。
さておき。
そんな「四葉珈琲店」店員、悠々自適モブ少年ことニコと幼なじみという謎設定が追加された私の推しが、「レイン・ワイズ」。青みがかった黒髪と、焦げ茶色の瞳に、眼鏡。攻略キャラの中では比較的地味である。
しかし、私は「幸薄そうで神経質そうな知的眼鏡男子」が大好物である。レインはまさに、それ。幼い時に両親を亡くし、中流階級居住区にある診療所、薬局で医者見習いとして働いている。チェルシーという5歳年下の妹がいて、彼女がナイスアシストするイベントもゲーム本編には多い。
本人はなかなかのハイスペックなのに、自己評価が低すぎて全くそれに気付いてなくて、「そんなことないよ君はめちゃイケてるんだよぉぉぉぉ」と褒めちぎりまくって赤面させるのが至高というかなんというか。まぁとにかく、地味で控えめだけど魅力的な我が推しである。控えめ長男美味しいですもぐもぐ。
転生して前世の記憶がある!と自覚した初日の私の動揺ぶりを想像してほしい。死んだことより転生したことより、「なにその追加設定!?」の動揺が一番でかかった。推しと幼なじみて。幼なじみ属性は残念ながらないのだがしかし。
「おはよう、ニコ。今日は診療所の方には顔を出すの?」
推しに顔見知りというか、親しげに話しかけられた時の私のリアクションよ。挙動不審ぶりよ。
「適当に何か見繕って昼頃に届けに行くよ。どうせ今日も閑古鳥だろうし。放っておいたらレインは何も食べないでしょ」
「そんなこと……あるけど。助かるよ」
ニコの口からこぼれたのは幾度となく繰り返されたであろう日常で。
推しの食生活を、健康を支えるモブ。推しの血となり肉となる(語弊)モブ……なにそれ尊い。




