47:お暇させて頂きます
「いきなりがっつく殿方は嫌われますぞ、坊っちゃま」
「誰ががっついてるんだ誰が!」
微笑ましげに会話を聞いていたトム氏が口を挟む。戸惑っているニコに対する助け舟なのだろう。
「同情で相手に付け入る殿方もいかがなものかと」
「だから誰がだ!」
「ニコさんドン引きですぞ」
いやドン引き、とまではいかないけども。やや引きくらいで。
「なっ……。ニコ、そうなのか?」
「ハイ、ブーッ!本人に確認しちゃうところもブーッ!ナンセンスですぞ、坊っちゃま!」
「ナンセンス……だ、と……ッ!」
「あの、トムさん……もうそれくらいにしておいてあげて下さい……」
だんだんジェラルドが可哀想になってきたニコなのである。友達のいなさそうな上に、生まれが高貴な彼のことである。発言がちょいちょいジャイアンになってしまっても致し方あるまい。だからと言ってまるっと受け入れる気もさらさらないのだが。リスロマンティックの性である。踏み込まれたら、引くのみ。
「ところで、そろそろお暇させて頂いてもよろしいでしょうか?なにぶん急に出てきたものですから」
「もう帰るのか?」
「おや、たしかに。食後のデザートも済みましたし、食事会はこれにて終了ですな」
「お前はどちらの味方なんだトム……」
間にトム氏が入ってくれて何よりである。
トム氏がいなかったら、なんだかジェラルドに金輪際会えなくなるような言動をしていた気がする。それだけは避けたい。しかし、ジェラルドの気持ちに答えることも出来ない。バランスが難しいところだ。
「お二人は出会ったばかりですぞ。そんなに焦らずとも、徐々に距離を縮めて行けばよろしいじゃありませんか」
「俺だってそう思っているが、昨日ニコはゼルに見つかっているんだぞ」
「……ほほう。騎士団長殿に」
「そうだ」
「……心中お察しします」
トム氏が急に態度を改めてしまった。一瞬で成立してしまった会話に、ニコは内心ギクリとしてしまった。よかった、指輪の話をしなくて。もう既にゼルから手を出されてますなんて知れたら、ここから帰らせてもらえなかったかもしれない。
「ともかく!食事会はこれにて解散ですな。ニコさん、お送り致しますぞ」




